フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第16話>
<第16回目>
その日は1月の最後の週の平日で、天気予報で3月下旬並みの気温と報じられくらい、日差しが気持ち良かった。
2人とも、昼間の出勤。目黒川にかかる橋の欄干で肩を並べてタバコを吸っていた。
通勤時間帯には多い人通りも今はまばらで、時々サラリーマンや同業者風の女があたしたちの隣を通り過ぎていく。
ここは川の両側に立つマンションのほとんどに風俗店の事務所が入っている、風俗街の中心地。働く場所とセックスをする場所が密着している五反田。これだけオフィスと風俗店とがバランス良く融合している街も珍しい。
「みぃみぃ」
東京湾に流れ込む目黒川に沿ってカモメが飛んできて、ここまでやってくる。
欄干や電柱で羽を休めているカモメに向かって冨永さんが鳴き真似をすると、仲間に求愛の合図を送られたとでも思ったのか、とがったくちばしのついた顔をきょろきょろ落ち着きなく動かすのが面白い。
「何やってるんですか」
「カモメをからってるんです」
「見ればわかるけど」
まだみぃみぃ言ってる冨永さんの横で、空を仰ぎながら煙を吐き出す。
体を売るという世間一般からは到底認められない仕事をしていようが、風俗街のど真ん中だろうが、見上げた空は春めいていて鮮やかな水色が目に染みる。
真冬の頃よりも輪郭をはっきりさせてきた雲がビルの上にもこもこ浮かんでいた。
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