フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第19話>
<第19回目>
「ただ、ひとつ適当じゃなくて、ちゃんと決めてることがあります」
急に声が真剣味を帯びた。間接の目立つ指が煙草をつまんで、携帯灰皿に灰を落としている。
「はるかさんだから言いますけど。10年もこの業界いるもんだから、何人か店の子と付き合ってます。ていうか、この業界入ってから付き合ったのは、ほとんど店の子だし」
「うちの店の子とも付き合ってた?」
「うちの店は、はるかさんだけですよ」
ものすごいことを聞いてしまって横顔を凝視するけれど、冨永さんは自分の失言、というか告白にまったく気づいてないように、平然と話を続ける。
「でもいつも、付き合ってから向こうに他に本命の彼氏がいることが発覚するんですよね」
「冨永さん、優しいからなー。いいように利用されちゃうんだろうね」
「はるかさんはいますか? 今付き合ってる人。正直に答えてください」
本当は、もともとはお客さんでアドレスを交換して、店の外で会っている人が何人かいた。でも付き合ってるとかじゃないし、向こうは風俗嬢とただでヤレてラッキーぐらいにしか思ってない。
あたしはあたしで、別に減るもんじゃないし、求められて断るのも面倒くさいし、だったらヤッとくかって感じだったので、断じて彼氏ではない。ので、正直に言った。
「いない」
「じゃあ、それを前提として言います。ずっと前から決めてました、いい加減じゃなくて本当に愛し合える人ができたら、一緒にこの業界抜けようって」
愛し合えるだなんて、他の人の言葉だったら笑っちゃうだろうに、何の照れもなく堂々と言った横顔を心底格好いいと思ってた。
春めいた日差しが冨永さんの意外に長い睫毛の下に、小さな影を作っている。
「本名教えてもらってもいいですか」
「凛。凛とする、の凛」
「凛さん。俺とこの業界、抜けませんか。もちろん、今すぐにってのは無理だけど、いずれちゃんと水揚げするんで」
「いつの言葉を使ってるのよ」
水揚げ。遊郭の時代からあった言葉らしく、風俗嬢が結婚して仕事を上がること。
告白を飛び越えていきなりプロポーズ。
全然重いと思わなかったのは、あたしも完璧に同じ気持ちだったから。
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