フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第23話>
<第23回目>
恋って、付き合うって、もっとドキドキしてひりひりして苦しくて悲しくて、好きって口に出すだけで心が張り裂けそうなものだと思ってた。
でも冨永さんとの恋は2人、猫になって晴れの日の縁側にぽかぽかと寝そべっているように、とても穏やかなものだった。
穏やかで幸せな恋の日々はやがて、少しずつ膨らむ不安に侵食されていく。
あたしと冨永さんはいつまでも、手を繋ぐこと、その先以上に進めないでいた。
目黒川沿いの桜の蕾が柔らかく膨らんで、バレンタインにチョコレートを贈り梅の花が散り、自分史上最高に楽しかった2月が終わって3月に入って、ひな祭りを過ぎてだんだん日の出が早くなり、夕方の時間が長くなっても、冨永さんはあたしに触れようとしない。
相変わらず週に2度会い、映画館やショッピングと、動物園か水族館かのデートを繰り返すだけ。キスをされることも抱きしめられることも家に呼ばれることもない。
そもそも告白から付き合うこと自体が初めてで、何もかもを相手の意志に委ねるような関係の作り方しかしてこなかったあたしは自分から誘うやり方もわからず、そんな勇気もなくて、途方に暮れていた。
中学生じゃないんだから、30歳近い女と30歳を過ぎた男のカップルがいつまでもプラトニックの域からはみ出さないでいるなんて、どう考えてもおかしい。
冨永さんはなんであたしに触れてこないんだろう?
理由がわからなくて不安になって、繰り返される好き、の一言もだんだん信じられなくなっていく。
あたしは毎回デートの後、いつまでも助手席からお尻を上げず、帰りたくないとだだをこねるようになった。
それが可愛いわがままなんかじゃなくて、痛々しいお願いだって冨永さんにも伝わってただろうに、毎回だめだよ、と頭をそっと撫でられて子どもにいたずらをたしなめるように優しく言われて、涙を呑んで車を降りる。
そんな状態で相変わらず風俗の仕事を続けていると、どういうわけか、何かのあてつけのように次々変なお客さんに遭遇する。
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