フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第24話>
<第24回目>
「あ、いきなり上がらないで! 着ているものは全部こっちのカゴに入れて、このスプレーで全身消毒してね。髪の中とかお尻の割れ目とかワキの間、そういうとこ忘れやすいから気を付けて」
その人はラブホテルの靴脱ぎ場であたしを迎えるなり、ビニール袋を敷いた脱衣籠と手作りの消毒液だろうか、100均で売っていそうな透明ピンクの安っぽい霧吹きを手渡して、わけのわからないことを言ってきた。
霧吹きの中の液体はたぶんエタノールだと思うけど接着剤みたいなツンとした臭いも混ざっていて、こんな怪しいものを全身に吹き付けるなんてどう考えたって肌に悪くて絶対に嫌だったけれど、仕事で来ている以上は仕方ない。
店は今日も暇で、これが一本目。ここで帰ったらお茶を引くことになるかもしれない。
「シャワーしたらもう一回、さっきのスプレーで全身消毒してね。プレイはこの上で。ベッド、ちゃんとビニールでぴったり覆ってあるでしょ。コンドームは全部で5枚、これとこれとこれとこれとこれ、つけてね」
シャワー中に使わされたのも、100均で買ったようなプラスチックの容器にわざわざ詰め替えられ、自分で妙なものをブレンドしたのか何か変な臭いのするボディソープだった。
透明のゴミ袋を切ってガムテープで繋げたものでベッドは覆われているし、コンドームに至っては重ね過ぎで、舐めたところでどれだけ感触が伝わるのか疑問だったけれど、よほど興奮していたのか早漏なのか、口に入れたら瞬く間にイッてしまってその点だけはラッキーだった。
「ずいぶん、キレイ好きなんですね」
ビニールが汗でしめった肌にまとわりつく不愉快極まりないベッドの上で言うと、お客さんは笑いながら答えた。
行動が明らかに異常なのに、笑顔も話し方もごくごく普通のいい人なのが気味悪くて、変な消毒液でかぶれたのか、ひりひりする肌がさっと粟立つ。
「いやー、俺、病気が怖くってさ。クラミジアに淋病梅毒エイズ、いくらでもあるからね」
「でも、ベッドまでこんなふうにすることなくないですか?」
「だってここ、いろんな人がさんざんエッチしてるとこなんだよー? そりゃ、こうするでしょ。君は気持ち悪いと思わないの?」
しょうがなく頷いた。
だったらラブホになんか来るな、自宅に呼べばいいのに。いや、自宅にどんな病気を持ってるかわからない風俗嬢を上げるのが嫌なのか。そもそもそんなに病気が怖いなら風俗で遊ばなきゃいいのに。
でも、この人が本当に怖がっているのは病気じゃなくて、どんなにシャワーを浴びても消毒してもあたしにまとわりついて離れない、もっとしつこい汚れなんじゃないだろうか。そして冨永さんもまた、その汚れを恐れて触れてこないんじゃないのか……。
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