フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第27話>
<第27回目>
ものすごく冨永さんに会いたかった。けれども、こういう日に限って迎えのドライバーさんは違う人で、髪の毛はぐちゃぐちゃで、目も頬も真っ赤にして出てきたあたしを見て『大丈夫!?』と声を裏返させた。
どう見たって大丈夫じゃないだろうに、いっそ笑える。
『ごめんねー、はるかちゃん。いや、新規の客だったんだけどさぁ。受け答えはしっかりしてたし、大丈夫な人だと思ったんだよねぇ。もちろん、はるかちゃんNGにしておくよー』
電話の向こうの店長に、全部ではないにしろ、おおよそのことをかいつまんで話すと、店のHPの出勤表のシフトを間違って書いたとか迎えの車が遅れたとか、そういう時とほぼ同じ軽ーいテンションで謝られた。
ごめんねじゃないし。もっと謝れだし。誠意を見せろ。電話で済ますな。あたしの目の前まで来て土下座ぐらいしろっつーの。お金だって、こんなことがあっても、きっちり50%バックなんておかしいじゃん。
謝る気がないならせめて全額あたしにくれ。てか、NGってなんだよ、それ。あいつがまた呼んだら他の子行かす気かよ。出禁だろ、普通。
言ってやりたいことは山ほどあったが、ここでブチ切れる気力もないので、全部飲み込んだ。
どこの店も大体そうだけど、風俗店は女の子を守ってくれない。店からは商品として、お客さんからは性欲処理の道具として扱われ、社会からはゴミくずのごとく蔑まれる。
風俗嬢は人間じゃない。
でもそんな仕事を選んでいるのはあたしで、続けているのはあたしで、他の選択肢を持っていないことがひたすら悔しい。
まだ一時間も受け時間が残っていたけれど、店長からはもう今日はこれでおしまいにしようと言われ、給料だけ受け取って、車に揺られながら始発の時間を待ち、やがて4時半が過ぎて車を降りる。
あんまり好きじゃない、おしゃべりでカルくて店の女の子を口説きまくってるというウワサのドライバーさんのセダンが遠ざかっていくのを見届けてから、駅と反対方向に歩き出す。歩きながら冨永さんにメールを打つ。
『今仕事終わった。いつも通りセブンにいる』
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