フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第31話>
<第31回目>
「凛、俺は」
「冨永さんはおかしい。彼女とこんなところにきて、彼女がこんな格好になってて、普通落ち着いてなんかいられない。落ち着いていられるのは、ほんとはあたしを好きじゃないからよ」
「そんなこと」
「そんなことあるでしょっ! 結局、冨永さんも他の奴らと同じなんだ、店と同じように客と同じように、風俗嬢を、あたしを、バカにしてるんだ。汚い女、最低、クズ、人間以下って思ってるんだっっ」
「凛!!」
冨永さんの声に初めて険しい響きが宿る。
あたしが手首を掴んでいた手に、いつのまにか逆に手首を掴まれている。そのままズボンの前へ、冨永さんがあたしの手を誘う。
ジーンズの分厚い生地ごしでもわかる。
それは死んだようにぐったりしていた。
「わかるだろ、凛。俺、できないんだ」
今にも泣き出しそうな冨永さんの目が、揺れながら、あたしを見つめていた。
想像はしていたことだった。
もしかしたら何か病気をしているとか、どうしようもない原因でそうなってるのかもしれない。
でも、冨永さんの悲しい目は、もっと恐ろしい理由があることを訴えている。
「いつかは、ちゃんと言わなきゃいけないと思ってた。でも、勇気がなくて……。知ったら、凛が離れていきそうで怖かった。凛を傷つけそうで怖かった。凛は生まれて初めてできた、俺の本物の幸せだから。どんなことがあっても、絶対凛を失いたくない」
冨永さんが力なく手を離し、あたしは上半身ブラジャー1枚下半身はスカートという中途半端ないで立ちで、体の横にぶらりと手を下ろした。
エアコンが効いていなくてむき出しの肌にざらりと鳥肌が立った。
「前も、この業界の女の子と付き合ったことがあるって言っただろ。その時からなんだ。自分の好きな子が、金のために他の男に好きなようにされている。俺の仕事は、その好きな子を、そいつらの元に送り届けること……。俺にとってこの仕事は、そういうものなんだ」
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