フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第34話>
<第34回目>
母親と愛人のセックスを見せつけられて育ったあたしにとってそもそもセックスとは忌々しい行為で、自分からそれに身を投じて約二十年、今でも忌々しい行為は忌々しい行為のままだ。
好きな人とは、相手の性欲を満たして、自分に繋ぎとめるため。
客とはもっと単純に、金のため。
ずっとそんなセックスしかしてこなかったから、自分が気持ちよくなるためとか自分と相手が幸せになるためとか、前向きな目的を持つセックスが、わからない。
冨永さんに抱かれたところで、仕事してる気になっちゃうんじゃないだろうか。目の前の冨永さんを、客と重ねて見てしまうんじゃないのか。
そうなるのが、怖いんだ。
「なんとなく、わかってたよ。だから、追いかけなかった。あの時」
5年前と変わらない優しい言葉がかけられる。あたしは欄干を握ったままぐっと腕を伸ばして、地面に向かって小さくため息を吐いた。
ダメだ。好きだ。今でも。
「ねぇ。俺たちさ。もう一度、無理かな……?」
こんなあたしにまだそう言ってくれる冨永さんが死ぬほど愛おしい。
だけどあたしは、下を向いたまま答える。
「ごめん」
「そか」
だって、今のままのあたしじゃ、もう一度付き合ったところで、また同じことを繰り返してしまうに決まってる。
体を売ることが罪なのかどうか、20年も体を売ってきて未だにわからない。
罪だとして、だから何なのよ、とも思う。世間の常識だのモラルだの、そういうものとほど遠いところで生きてきたんだもの、ずっと。
自分1人だけ愛していれば、それでよかった。
でも本当に好きな人ができた瞬間、今までは何でもなかったことが、途端に罪に変わることもあるんだ。裁くのは結局、常識でもモラルでもなく、自分自身だから。
罪に罰があるとしたら、これ以上の罰があるだろうか。
こんなに好きなのに、愛してるのに、あたしたちは結ばれない。こんなに素晴らしい気持ちに身を任せ、素直に生きることができないなんて。
いっそこの人に出会わなきゃよかった。こんな気持ち、知りたくなかった。
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