ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第17話>
<第17話>
一ヶ月後、柊太郎はダンサーたちが共同生活する寮に引っ越した。
本当にメンズストリップをやりたいのか一ヶ月よくステージを見て考えろと言われ、馬鹿正直に考えた結果、やはりやりたいと柾に伝えると、柾から団体の代表である和泉に話が伝えられ、正式に所属することになった。
和泉は柾とミシェルの争いを止めていた中年男性だった。
面接を受けていたダイニングバーには、「テスト」の翌日には辞退の電話を入れた。
一ヶ月の間、柊太郎はただ客としてのんびりダンスを見ていたわけではなかった。コンビニのバイトがあった日以外のほぼ毎日、開店時間前に足を運んで練習風景も確認したから、練習がどれほど厳しいかも理解した上での決断だった。
練習は「T/C Show & Lounge」の定休日である日曜・祝日以外毎日、営業前の店で行われた。プロの講師を呼んでのレッスンも何度かあった。必ず出なくてはいけないわけではないが、一定以上のレベルに達しないとステージには出してもらえず、フロアでボーイとして接客しなければならない。その給料の差は雲泥といってもよかった。
ショーは一度に七回か八回のステージがあり、ダンサーは常時大体その二倍程度の数がいた。毎月オーディションがあり、誰が出演できるかはその都度変わる。つまりオーディションに受からない限り、その月の収入は激減することになる。
さらに在籍して一定期間を超えながら三ヶ月続けてステージに立てない場合は、チーム内の空気に耐えかねて自主的に辞めることが多いとも聞いた。このあたりは単に練習量の問題では測れない種類の厳しさだった。
他のダンサーほど時間を自由に使えない大学生には不利な条件が多かったが、デメリットばかり数えても仕方がない。
寮に入るのは強制ではなく自宅から通う者もいたが、あえて入ったのはそうしたほうが多少だが家賃も交通費も安くなるからだ。それにどうせやるなら、ライバルたちに囲まれて緊張感のある生活をしたくもあった。
柾やミシェルといった、オーディションに受かり続けることが当たり前のダンサーたちは一人一部屋与えられているが、それ以外は二人一部屋が基本だった。ワンルームだからプライバシーの確保は難しいが、それがいやなら早く実力をつけて抜け出せというわけだ。
寮と聞いて、柊太郎は最初古びた木造の建物を想像したが、実際はごく普通のマンションだった。引っ越しを決めたのはもう一点、それも決め手になった。普通のマンションであれば万が一両親が上京して来ても、同居人に話さえつけておけば怪しまれずに部屋に上げることができる。
両親には「お金を節約するため、友人と同居することにした」と話した。場所は新宿二丁目を出てすぐ、住所でいうと新宿一丁目に位置しており、店までは徒歩で五分程度だ。
同室になったのはてまりという男だった。
名前も女のようだったが、容姿も男というよりは男の子、いや、少女のようだった。声もか細い。
年は柊太郎よりひとつ上の二十一歳だったが、一歳であっても年上だとは信じられないほど幼く見えた。体は小さいのにいつも大きめの服をだぼっと着ていたせいもあるだろう。
黒猫のポシェットにスマートフォンや財布やチュッパチャプスといった生活必需品を突っ込んで、常に肩から提げていた。
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