ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第24話>
<第24回>
もう本当に見限られるのだろうと思った。いや、すでに見限られたかもしれない。
これまでもその恐怖はあったが漠然としたものだったし、てまりに励まされて何とはなしに安心していた。
だが、今は違う。実体のある、明日からどうなるのかがはっきりと想像できる恐怖だった。
――そもそも才能がないんだろうな。俺も時間の無駄だったのかもしれん。
和泉やオーナーが目を掛けてくれたというぐらいだからここに居続けること自体はできるだろうが、柾に見放されたらそうするもっとも大きな理由はなくなる。てまりや他のダンサーたちに愛着は湧いているし、ダンス自体も楽しいと思えるが、それだけでやっていくのは難しそうだ。
柾についていきたくて、柾の背中を追って、ダンスをしていた――。
店を出て、特にあてもないままあたりをうろついた。
ボーイのバイトをしなくてはいけなかったが、一連のやりとりを見聞きしていたスタッフたちの中に今、戻りたくはなかった。無責任だとは十分わかっている。だが、好奇と憐みの目に晒されるのにどうしても耐えられない。
一度は家に帰ろうとしたが、誰かが探しに来るとしたらまず家だろうからやめた。静かなところで少し気持ちを落ちつけたかったので、喫茶店も避けたかった。
思いついたのは、どこか新鮮な空気が吸える公園だった。新宿御苑が空いていればそこがよかったが、この時間はもう閉まっている。
結局ずいぶん歩いて、気がつけば大久保のほうまで来ていた。繁華街を抜けたところにあった小さな公園のベンチに座り、スマートフォンで時間を確認すると、店とてまりから何件か着信があった。
もうとっくに開店時間を過ぎている。今日は女性の来店も可能なミックスデーだ。ステージを食らいつくように見入る客が多いメンズオンリーデーと比べると、注文も客の数自体も多い。ボーイが一人抜けただけでも店はてんてこ舞いになるだろう。
こんなことをしている場合ではないと頭ではわかっている。それでも体は動かず、指先は意思とは裏腹にスマートフォンの電源を切った。
しばらく座ったままでいたが、ふと思い立って近くのコンビニに行った。煙草一箱とライター、携帯灰皿を買ってベンチに戻る。
慣れない手つきでタバコに火をつけ、思いきり吸いこんだ。煙草は二十歳になったばかりのとき、ためしに吸ったことがあったが、美味いとはとても感じられなかったので、それ以降は手を出していない。これが生涯で二回目の喫煙になる。
むせないよう煙をうまく肺に入れろ、と教えてくれたのは、大学のバスケ部の先輩だった。先輩から教わりたかったのはボールのさばき方や敵のポジショニングに合った動き方だったが、そういったことは最後まで聞けずじまいだった。
喫煙は肺活量を落として、体力を始めとした全体的な運動能力を下げる。あえて調べなくても、その程度の知識は持っている。
柊太郎は自暴自棄になっていた。どうせダンスもやめるのなら、もうどうなってもいい。いや、むしろ後戻りができないように自分を壊してしまいたい。そう願いつつ、できることが喫煙程度という自分の小者感にはうんざりするが、とりあえずそのぐらいしか思いつかないのだから仕方がない。
立て続けに吸っていると、三本目で眩暈がしてきた。まだ半分以上残っている煙草を携帯灰皿の蓋に押しつけてもみ消し、ペットボトルの水を飲む。
まっすぐ座っているのがしんどくなって、腰を前方に突き出し、半ば寝転ぶように背もたれに寄りかかった。頭までズキズキと痛みだしてくる。最悪な気分だ。
公園の外の道を通る、会社帰りと思しき人々が柊太郎を一瞥しては、見てはいけないものを見たかのように通り過ぎていく。少し早い時間から飲み過ぎた酔っ払いとでも思われたのかもしれない。頭に来る理由など何もないのに、何だか腹が立つ。
「柊ちゃん!」
聞き覚えのある声がして柊太郎は振り向いた。
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