ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第26話>
<第26話>
「二人辞めてる? 柾さんが厳しすぎて?」
柊太郎は確認するように尋ねる。
「そう。どっちも一ヶ月ももたなかった。その点、柊ちゃんはすごい根性あるよ。僕がそう思うだけじゃなくて、皆そう言ってる。そんな柊ちゃんが飛び出しちゃったから、みんな心配してさ。それで皆が、僕に探しに行ってこいって」
「そう……なのか」
そんなふうに思われていたとは知らなかった。体育会育ちの柊太郎にとって、先輩のシゴキについていくのは当然のことだが、普通はそうではないのだろう。しかし何にしても、心配してもらえたのならありがたいことだった。
ふと、柾に謝ろうとT/C Show & Loungeを訪れた日のことがよみがえる。
――どうするんだよ、また新人つぶしやがって!
あの日、ミシェルは柾にそう突っかかっていた。「また」と言うからには、やはり以前にもあったのだ。それをてまりに話すと、
「ミシェルさんが柾さんに絡むのは、お家芸みたいなものだけど……『また』と言いたくなる気持ちはわかるよ。正直、みんな戦々恐々としてる」
と、再び大きな溜息をついた。
どうやら柾の厳しさの被害を受けていたのは柊太郎だけではなかったようだ。
「今まで辞めた人だって、別に下手ってわけでもなかったんだけど、柾さんの求めるレベルが昔とは段違いになってるんだ。柊ちゃんなんか特に、今までいた人と比べても相当上手いほうだと思うんだけど、それがどうしてあんな言い方を……」
その時、てまりの黒猫のポシェットの中から、スマートフォンの軽やかな着信音が流れ出した。てまりが取り出したのを横から見ると、店の名前が表示されていた。
「もしもし……あ、はい……」
てまりが探るような目で柊太郎を窺う。見つけたことを話していいのか聞きたいのだと察して、小さく頷いた。
「はい、見つかりました。すぐ連れて帰ります。あと二十分ぐらい。…………えぇっ!?」
突然てまりが大声をあげた。
てまりの顔は薄暗い街灯の下でもわかるぐらい、みるみるうちに真っ赤になっていった。
「由井さんが来てる……あ、はい、あの……すぐに戻るから待ってて下さいって……あの、十分で帰りますから……あのぉ……!」
電話は柊太郎の居所を確かめると同時に、てまりに由井が来ていることを知らせる目的もあったようだ。てまりは電話で話しながらもじもじしていた。
悪いことをした。自分が店を飛び出したりしなければ、てまりはもっと早く由井に会えたのだ。
「行こう」
柊太郎のほうが立ち上がって、てまりの手を取る。立ち直れたわけではないが、てまりを巻き添えにするわけにはいかない。
柾と顔を合わせづらくはあったが、柊太郎を連れていかないことにはてまりも帰るに帰れないだろう。
あとはもう、自分が柾と対峙して解決するしかない。
「こっちのほうが近道だよ」
てまりは大通りの途中で小さな路地に入り、小柄な野良猫のように柊太郎を先導して走った。
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