ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第41話>
<第41話>
店の閉店時間になっても、てまりは部屋に戻ってこなかった。
柾に寮で待機を命じられたことを知って、気を使ってどこかで時間を潰してくれているのかもしれないし、アフターで客と食事や飲みに行っているのかもしれない。
閉店時間から一時間半ほど経って、柾から電話があった。自分の部屋で待っているから来いという。
もとより何があってもすぐに動けるようにしていた柊太郎は、支度することもほとんどなく部屋を出た。
柾の部屋は、柊太郎とてまりが住むマンションから徒歩五分ほどのところにあった。玄関までオートロックで、自分たちのマンションからしてみればずいぶん贅沢に思える。その建物に柾の部屋があることは知っていたが、訪れるのは初めてだった。玄関の暗証番号と部屋番号は、電話の後すぐに届いたメールで教えてもらった。
自動ドアを開けてエレベータに乗る。柾の部屋は八階にあった。
ドアのチャイムを鳴らすと、部屋着姿の柾が出てきた。部屋着といっても、普段着ている練習着と同じだ。兼用しているのだろうか。だが、見慣れているはずの姿なのに、柾の自室という空間にはまると、その姿が新鮮に見えて胸が高鳴ってしまうから不思議だ。
(そんなこと考えてる場合じゃないだろ、俺……)
俺は怒られに来たんだ。怒られる程度じゃ済まないかもしれない。最悪の事態――クビを宣告される可能性だって低くはない。低くはないどころか、かなり高いだろう。
おそらく、少しずつじわじわと、柾は柊太郎に絶望していったに違いない。そして今日、ぎりぎりつながっていた柊太郎の首の皮は、たぶん落ちた。
「上がれ」
柾の声も表情も、予想していたより穏やかだった。だがもしかしたらこれは、怒りの嵐がすべてを薙ぎ払っていった後の穏やかさなのかもしれない。
部屋は広いワンルームだった。同じワンルームでも、自分とてまりが住む部屋の二倍はある。家具は少なく、ベッドやソファ、大きめの鏡や小ぶりなオーディオセットなど必要最小限のものしかなかった。テレビはない。脇にキッチンがあったが、仕切りで隠されていて何があるのか、どうなっているのかよく見えなかった。
「座ってろ」と促されるままに、部屋の真ん中に置かれたソファに座る。ソファは一人掛け用のものがひとつと二人掛け用がひとつあって、間には木製のローテーブルが置かれていた。柊太郎は一人掛け用のほうを選んだ。
「コーヒーでいいか」
柊太郎の返事など待たずに、柾はキッチンに入っていった。
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