泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第16話>
<第16回>
奥様方の井戸端会議で、竜希さんの結婚話——しかも今どき珍しくもないできちゃった結婚で、しばらくはお隣で竜希さんの両親と一緒に住むという、そんなことまで聞きつけてきたお母さんによって、年季の入った初恋はあっけなく失恋に変わった。
さらには竜希さん本人から、緩み切ったヘラヘラ笑顔で直接結婚のことを聞いてとどめを刺され、忘れなきゃと決意してからも、竜希さんのことで一喜一憂するのをやめられない。
こんなの、もう嫌なのに。
竜希さんのせいで喜んだり落ち込んだりするのは、長年の片思いのうちに身に付いた習慣みたいなもので、もはや脊髄反射に近い。だから、そう簡単にはこの長い時を経て大きく重くなり過ぎた思いを捨てられない。
「一葉ちゃん、可愛いー」
ぺたんこ靴を履いてても由実さんの視線はわたしより15センチは高いところにあって、そんな場所から目を細めて見下ろされて、はぁ、と戸惑った声が出る。
わたしはよく人から可愛いと言われるけれど、それは赤ちゃんや動物やぬいぐるみに対して可愛い、というのと同じ意味しか持たないから、女子的な魅力を認めてそう言ってもらえるわけじゃない。
「あれ、今日平日でしょ? 学校は?」
「今日は休みなんです」
「休み?」
「かずちゃんはね、高校生じゃないの。大学生なの。しかもW大」
竜希さんに遠慮がちな声で言われて、由実さんの頬が申し訳なさそうに赤くなった。
「ごめんなさい、わたしったら。ほら、このへんの高校、私服のところが多いから。勘違いしちゃって」
「いえ……」
本当に申し訳なさそうにごめんなさいを繰り返すので、かえってこっちが悪いことをしている気になる。
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