泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第22話>
<第22話>
「奥さんになる人、4コ上なんですって。あのぐらいの歳だと4才差って大きいだろうに。竜希くんが年上選ぶなんて、なんか意外だわー」
数日前に聞いたのと寸分違わず同じことをしゃべっている。薄いでがらしのお茶をすすりながら、ふぅん、そう、と適当に頷くわたし。
わたしにはお姉ちゃんとお兄ちゃんが1人ずついるけれど、どちらからも一葉はほんとお母さんに優しいねーって言われる。
ただのお人よしで、お母さんが始終放っているオバタリアンパワーのようなものに抗えないだけなんだけど。
「それにしても、人はわかんないものね。あの竜希くんができちゃった結婚だなんて。子どもの頃はうちに来ても、きちんと挨拶するし、靴も揃えて脱ぐし、すごくいい子だったのに」
能天気なお母さんの声に、悪意を含まないごく薄い毒が混ざって、湯のみを握る手につい力がこもった。
「専門学校に行って、看護師になって、立派な子だと思ってたら、順番間違えちゃうんだからねぇ。一葉はできちゃった婚だけはやめてよね」
「竜希さんのこと悪く言わないでっ」
思いのほか、声が強くなった。
テーブルの向かいに座っているお母さんが目を見開いていて、いつのまにか睨みつけてしまったのに気付く。リビングに気まずい沈黙がやってきて、庭でちゅんちゅん鳴いているスズメの声がよりくっきりと聞こえる。
頬が熱を持つ。下を向く。
こんなことでムキになっちゃって、竜希さんを好きだってお母さんに気づかれたかもしれない。
それはちっとも必要のない心配で、鈍感なお母さんはわたしの怒りの出どころが本気でわからないようで、戸惑った声になる。
「な、何よ。別に悪くなんか言ってないじゃない……。ただ、できちゃった婚は外聞が悪いってこと。今の若い人は気にしないのかもしれないけどねぇ、やっぱりお母さんとかからしたら」
「レポート、あるから」
椅子を引いて立ち上がり、ぬるいお茶がまだ残っている湯のみを持って2階に上がった。
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