泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第26話>
<第26話>
「フロントに全部の個室の明かりをいっぺんに消せるスイッチがあって、そのスイッチが作動すると今みたいに真っ暗になるわけ。そうなったらすぐに服を着て、お客さんにも服を着てもらうか、お風呂に入れるかしてほしいの」
「お風呂……?」
「保健所の抜き打ち検査の目的は、ソープランドがちゃんと特殊浴場として機能してるかどうかチェックすることだから。ソープは、建前上は特殊浴場という位置づけで営業していて、性行為は行われないことになってるの。ソープ嬢はお店から管理人として個室を管理していて、そこにたまたまお客さんがやってきて、たまたま自由恋愛が設立する、っていう名目ね」
「たまたま……ですか」
「名目だから。あ、あと抜き打ち検査の時はこれもだめ」
2日間の研修ですっかり見慣れてしまった沙和さんの陶器のような白い体が個室の入り口に歩み寄り、ドアにかけられていたタオルを取る。沙和さんがそんなことをするまで、そこにタオルがかかっていることにすら気づいてなかった。
「あくまで特殊浴場だから、ドアは外から中が見えるようにしておかなきゃいけないの。ほら、ここのところがガラスでしょ? でもそれじゃあ普段はダメだから、このタオルで覆ってるってわけ。抜き打ち検査の時は外してね」
「あの。保健所の人は、特殊浴場ということになっているソープの中で本当は何が行われているか、知ってるんですよね?」
「もちろん」
「知ってるのに、なんのためにそんなことをするんですか?」
「さぁ。案外、ごっこ遊びみたいなものなのかもしれないわよ。鬼ごっこでいえば保健所の人は鬼の役で、お店側は逃げ回る役だから。毎日が同じことの繰り返しで退屈し過ぎないように、適度にイベント性を持たせたいんじゃない?」
なんてくすくす笑っちゃって、冗談なのか本気なのかわからない。
どうやらソープランドの世界にはたった20年しか生きていないわたしの想像を遥かに超えるエキサイティングなあれこれが、まだまだたくさんありそうだ。
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