泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第32話>
<第32話>
「そんな、うざいって。わたしはただ、風俗が初めてだっていう知依ちゃんが心配で」
「だから、そういうのがウザいんだよ」
「もー、雨音さんてばぁ、やめなよー。知依ちゃんが怖がってるってばー」
うららさんが能天気に語尾を伸ばして言った。あまね、と呼ばれたショートカットの女の子は、これ以上言い合いを続ける気力が失せたのか、目の前で繰り広げられるソープ嬢同士のいさかいにビビっているわたしをちらりと見た後、小さくため息をついてから携帯と睨めっこを再開した。
「うちは集団待機が基本だから、慣れるまでは気疲れするかもしれないけど、大丈夫よ。みんないい人だし」
「はぁ」
みんないい人って、今のやり取りを見せられてそんなこと信じられるわけがない。
すみれさんはやっぱりちょっと、変だ。言うことがいちいち、芝居がかっていて台詞のよう。
「知依ちゃんがんばってー、指名取れればバックも上がるし、個室待機になれるし! ちなみにわたしは、先月ナンバースリー!」
うららさんが元気よく3本の指を突きだしてみせる。
雨音さんがまた不機嫌そうに細く削った眉をつり上げた。
「何それ。新人捕まえていきなり自慢?」
「えー? 別に自慢じゃないよぉ。事実だもーん!」
「雨音さん、今は突っかかるのやめて。知依ちゃん今日が初めてなんだから」
おろおろするすみれさんに、さらに不機嫌そうに鼻の上に深い皴を作る雨音さん。2人の間でケンカはやめてー、と歌うように言ううららさん。
これからの生活は想像以上に大変かも。ほんとに早く、部屋つきのソープ嬢を目指すべきかもしれない。
でも、あれ。朝倉さんの説明ではナンバーワン、ツー、スリーの3人には個室待機の特権が与えられるって話だったけど、なんでナンバースリーのうららさんは個室待機じゃないんだろう?
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