泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第36話>

2014-12-18 20:00 配信 / 閲覧回数 : 927 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Chii 泡のように消えていく… 連載小説


フィスト


<第36回>


「わたしの中にはまだ、好きな人への気持ちが残ってるから。その気持ちが消えないまま、自分に嘘をついて別の誰かと付き合ってそういうことをしたら、結果的に自分を好きって言ってくれた人を傷つけちゃうだろうし」

きっと、永遠に叶わない夢を追うことすらできないように、自分を追い込むまで、わたしは竜希さんを思い続けてしまう。


だから最初の相手は、わたしのことを本気で好きな人じゃダメだった。


ただ体目当ての、その場限りの、ほんのかりそめにわたしを求めてくれる人がちょうどよかった。


今でも、セックスは本当に好きな人とするのが正しいって思ってる。けれど、正しいことが人を幸せにするとは限らない。それが身をもってわかった分、少しは大人になれたんだろうか。


「だから、渋谷でふらふらしてナンパされるのを待ったり、出会い系サイトに書き込んだりしたんです」

「危ないなぁ」


「でも、ダメでした。声をかけられたことやメールが返ってきたことはあるけれど。やっぱりいざというと勇気が、出なくて」


「そりゃそうだろう」


「そんな時、スカウトマンに声をかけられたんです。風俗のお仕事しない? って。その場ではびっくりして逃げちゃったんだけど、後で考えたらそういう道もあるなって気づいて。風俗で働けばお金も貯まるから、家を出る資金が出来るし」


もうすぐわたしの隣には、由実さんが住む。いずれ2人の子どもも生まれる。

すぐ目の前に、他の人を愛して幸せになっている竜希さんがいることに、とても耐えられそうにない。いずれ受け入れるようにならなきゃダメなんだろうけど、今は無理だ。


「だからって、いきなり初めての風俗でソープに来なくても」

「だって、ソープだけですよね? 風俗で、本番があるのは」

「建前上はそういうことになってるけれど、実際はヘルスで本番のあるところも多いんだよ」

「そうなんですか!?」

「いや、本番以上に過激なサービスをしている店も今は多いからね。ここは店舗型だし、店長もすごくしっかりしていて、ちゃんと女の子を守ってくれる。最初にここに来て、よかったんだと思うよ。どう、続けられそう?」

ついさっきまで顔も知らなかった男の人の腕の中で、はっきり頷く。

 




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