泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第36話>
<第36回> 「わたしの中にはまだ、好きな人への気持ちが残ってるから。その気持ちが消えないまま、自分に嘘をついて別の誰かと付き合ってそういうことをしたら、結果的に自分を好きって言ってくれた人を傷つけちゃうだろうし」 きっと、永遠に叶わない夢を追うことすらできないように、自分を追い込むまで、わたしは竜希さんを思い続けてしまう。 だから最初の相手は、わたしのことを本気で好きな人じゃダメだった。 ただ体目当ての、その場限りの、ほんのかりそめにわたしを求めてくれる人がちょうどよかった。 今でも、セックスは本当に好きな人とするのが正しいって思ってる。けれど、正しいことが人を幸せにするとは限らない。それが身をもってわかった分、少しは大人になれたんだろうか。 「だから、渋谷でふらふらしてナンパされるのを待ったり、出会い系サイトに書き込んだりしたんです」 「危ないなぁ」 「でも、ダメでした。声をかけられたことやメールが返ってきたことはあるけれど。やっぱりいざというと勇気が、出なくて」 「そりゃそうだろう」 「そんな時、スカウトマンに声をかけられたんです。風俗のお仕事しない? って。その場ではびっくりして逃げちゃったんだけど、後で考えたらそういう道もあるなって気づいて。風俗で働けばお金も貯まるから、家を出る資金が出来るし」 もうすぐわたしの隣には、由実さんが住む。いずれ2人の子どもも生まれる。 すぐ目の前に、他の人を愛して幸せになっている竜希さんがいることに、とても耐えられそうにない。いずれ受け入れるようにならなきゃダメなんだろうけど、今は無理だ。 「だからって、いきなり初めての風俗でソープに来なくても」 「だって、ソープだけですよね? 風俗で、本番があるのは」 「建前上はそういうことになってるけれど、実際はヘルスで本番のあるところも多いんだよ」 「そうなんですか!?」 「いや、本番以上に過激なサービスをしている店も今は多いからね。ここは店舗型だし、店長もすごくしっかりしていて、ちゃんと女の子を守ってくれる。最初にここに来て、よかったんだと思うよ。どう、続けられそう?」 ついさっきまで顔も知らなかった男の人の腕の中で、はっきり頷く。
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