泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第37話>
<第37回>
もともと、処女を捨てるのが目的で飛び込んだ風俗という世界。目的を果たして、一人暮らしのための資金も貯めて、さっさと辞める気でいた。一カ月もいないつもりだった。
でも、朝倉さんに会って、沙和さんに会って、成田さんに会って。気持ちは少しずつ変わっていって、やがてハリボテじゃない本物の覚悟が固まった。
「風俗でもちゃんと頑張ってやっている人がいるの、わかったから。わたしが考えていたほど簡単なお仕事じゃないって、知ったから。だからちゃんと、続けたいと思います。少なくとも、学生のうちは」
ハタチまでのわたしの人生は恋愛一色、正確に言えば竜希さん一色だった。
お隣の竜希さんを思い続けて思い続けて、竜希さんのことで一喜一憂して、いつか竜希さんと付き合える日々を夢見ては、過ぎていく毎日。他に好きな人もできなかったし、人生の目標とか夢とか、真剣に考えたことなかった。竜希さんの愛さえ手に入れば、後はどうでもよかった。
だけど、ただ一度だけの恋を永遠に失ってしまって。小さい頃からの夢が絶対に叶わないものになって……。
きっと本当は、それでよかったんだ。
竜希さんへの片思いに別れを告げない限り、踏ん切りをつけない限り、これから一人で歩いていく道のことなんてちゃんと考えようとしなかったはずだもの。
ただ真面目に、はみ出さないように生きてきただけのつまらない優等生で、将来なりたいものもわからない。そんな女の子は、これからちゃんと変われる。ソープで働くのは決して正しいことじゃないのかもしれないけれど、とりあえず今の自分には必要なことなのだと思う。
「頑張るんだよ、知依ちゃん。また来るからね」
子どもを褒めるように優しくわたしの頭を撫でてくれる手のお蔭で、わたしはようやく竜希さんを好きだったわたしにさよならを言えた。
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