泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第3話>
<第3話>
「あれー、知依ちゃん。今日は遅くないー?」
「そうなんですよ、ロングコースの予約が入っちゃって」
苦笑いする知依ちゃんは少し疲れた顔をしている。
わたしだって最初はピンサロ、次にデリヘル、その次にやっとソープっていう流れだったから、知依ちゃんが風俗はまったく初めてでソープに来たって聞いた時はびっくりしたけれど、近頃はだいぶ仕事に慣れたみたい。
「実家なんだよねー? 親とか、大丈夫? 怪しまれない?」
「大学生ですから。飲み会に行くって電話入れたら、あっそう、って全然疑ってない感じでした」
「そっかぁー、よかったね!」
「ねぇ。今3番の部屋使ってたの、あんた?」
雨音さんが海綿の入った袋片手に、こっちを睨みつけながら言う。
睨まれているのはわたしなのに、知依ちゃんの細い肩がびくっと上下した。仕事には慣れても雨音さんにはいつまでも慣れない、この子は。
「うん、わたしだよー。なんでー?」
「あんたの声、でか過ぎなんだけど。あたし隣入ってたけど、こっちはお話だけの人でさ。おかげで気まずいったらない」
雨音さんは、本当は結構わたしより年上らしいけれど、背が小さくてかなりの童顔で、黒くて短い髪もショートボブよりはおかっぱと言いたくなる。そんなルックスなので凄んでも正直、あんまり迫力がない。
喧嘩を売ってるんじゃなくて、ちっちゃい子が駄々をこねてるみたい。でもつけ睫毛で飾ったくるんと丸い目は、鋭く光っていた。
「声ぐらい、いいじゃーん。ここはソープなんだからぁ。雰囲気が出て、よかったでしょー?」
「そりゃたしかにここはあんあんあんあん言うとこだけど、限度ってものがあるでしょ、限度ってものが。雰囲気が出て喜ぶお客様ばっかりじゃないの、そうじゃない人もいるの。もっと人の迷惑考えなさいよ。ついでにその語尾をやたらと伸ばすしゃべり方、イラつく!!」
最後の4文字にしっかりアクセントがついていて、わたしを挑発してやろうという意図がはっきり見えた。わたしはバカだけど、考えるの嫌いだけど、こういうのに簡単に踊らされるようなバカではない。
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