泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第3話>

2014-12-24 20:00 配信 / 閲覧回数 : 980 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第3話>

 

「あれー、知依ちゃん。今日は遅くないー?」

 

「そうなんですよ、ロングコースの予約が入っちゃって」

 

苦笑いする知依ちゃんは少し疲れた顔をしている。

 

わたしだって最初はピンサロ、次にデリヘル、その次にやっとソープっていう流れだったから、知依ちゃんが風俗はまったく初めてでソープに来たって聞いた時はびっくりしたけれど、近頃はだいぶ仕事に慣れたみたい。

 

「実家なんだよねー? 親とか、大丈夫? 怪しまれない?」

 

「大学生ですから。飲み会に行くって電話入れたら、あっそう、って全然疑ってない感じでした」

 

「そっかぁー、よかったね!」

 

「ねぇ。今3番の部屋使ってたの、あんた?」

 

雨音さんが海綿の入った袋片手に、こっちを睨みつけながら言う。

 

睨まれているのはわたしなのに、知依ちゃんの細い肩がびくっと上下した。仕事には慣れても雨音さんにはいつまでも慣れない、この子は。

 

「うん、わたしだよー。なんでー?」

 

「あんたの声、でか過ぎなんだけど。あたし隣入ってたけど、こっちはお話だけの人でさ。おかげで気まずいったらない」

 

雨音さんは、本当は結構わたしより年上らしいけれど、背が小さくてかなりの童顔で、黒くて短い髪もショートボブよりはおかっぱと言いたくなる。そんなルックスなので凄んでも正直、あんまり迫力がない。

 

喧嘩を売ってるんじゃなくて、ちっちゃい子が駄々をこねてるみたい。でもつけ睫毛で飾ったくるんと丸い目は、鋭く光っていた。

 

「声ぐらい、いいじゃーん。ここはソープなんだからぁ。雰囲気が出て、よかったでしょー?」

 

「そりゃたしかにここはあんあんあんあん言うとこだけど、限度ってものがあるでしょ、限度ってものが。雰囲気が出て喜ぶお客様ばっかりじゃないの、そうじゃない人もいるの。もっと人の迷惑考えなさいよ。ついでにその語尾をやたらと伸ばすしゃべり方、イラつく!!」

 

最後の4文字にしっかりアクセントがついていて、わたしを挑発してやろうという意図がはっきり見えた。わたしはバカだけど、考えるの嫌いだけど、こういうのに簡単に踊らされるようなバカではない。

 

 

 




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