泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第8話>
<第8話>
部屋着に着替えて化粧を落としたら、さっそく家事にとりかかる。
洗濯器を回し、トイレ掃除をして、お風呂は自分で入りながらついでに洗う。終わったら、いよいよ、料理の時間。刻んだお肉と野菜を炒めて、ゆでたジャガイモを潰して……。トマトは薄くスライスした後、みじん切の玉ねぎを入れた手作りドレッシングをかける。
颯太くんのために腕をふるうこの時間が最高に幸せ。
真っ赤なのがかわいくて気に入っているル・クルーゼの鍋から、コトコトとカレーが煮える音がする。幸せの音だ。
颯太くんとは2年前、友だちに連れられて行ったホストクラブで知り合った。
颯太くんにはミュージシャンになりたいという夢があるけれど、親が抱えている借金を返さなきゃいけなくて、仕方なくホストとして働いているらしい。
わたしとひとつしか歳が違わないのにまったく親に頼らず、それどころか親のために働いて、自分の目標だってしっかり持っている。すっごく偉いんだ、颯太くんは。自立していて、才能があって、家族思いで、優しくて。そんな颯太くんを好きにならないわけがない。
颯太くんのことを話すとたいていの人は眉をひそめ、「そりゃ、ダマされてるに決まってるじゃん」とか「なんで、そんな簡単なウソに引っかかるの?」とか「あんたバカじゃないの?」とか、口々にひどいことを言う。
わたしはそんなの、信じない。だって付き合い始めてすぐに颯太くんに言われたから……。
「俺とお前の関係は、なかなか人に理解されない。でも、他人の言うことなんて、信じないでほしい。お前は俺だけ、俺の愛だけ、信じていればいいんだ」……と。
みんな知らないんだ、颯太くんがどんなに優しいか、どんなに心を震わせる歌を歌うか、どんなにわたしを愛してくれているか。
颯太くんと付き合い始めてから、友だちは次々離れていった。あんたには付き合いきれない、って。
でも颯太くんがいるから、一人ぼっちじゃない。
颯太くんさえいれば、わたしは幸せ。
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