泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第8話>

2014-12-29 20:00 配信 / 閲覧回数 : 927 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


 

名器

 

<第8話>

 

部屋着に着替えて化粧を落としたら、さっそく家事にとりかかる。

 

洗濯器を回し、トイレ掃除をして、お風呂は自分で入りながらついでに洗う。終わったら、いよいよ、料理の時間。刻んだお肉と野菜を炒めて、ゆでたジャガイモを潰して……。トマトは薄くスライスした後、みじん切の玉ねぎを入れた手作りドレッシングをかける。

 

颯太くんのために腕をふるうこの時間が最高に幸せ。

 

真っ赤なのがかわいくて気に入っているル・クルーゼの鍋から、コトコトとカレーが煮える音がする。幸せの音だ。

 

颯太くんとは2年前、友だちに連れられて行ったホストクラブで知り合った。

 

颯太くんにはミュージシャンになりたいという夢があるけれど、親が抱えている借金を返さなきゃいけなくて、仕方なくホストとして働いているらしい。

 

わたしとひとつしか歳が違わないのにまったく親に頼らず、それどころか親のために働いて、自分の目標だってしっかり持っている。すっごく偉いんだ、颯太くんは。自立していて、才能があって、家族思いで、優しくて。そんな颯太くんを好きにならないわけがない。

 

颯太くんのことを話すとたいていの人は眉をひそめ、「そりゃ、ダマされてるに決まってるじゃん」とか「なんで、そんな簡単なウソに引っかかるの?」とか「あんたバカじゃないの?」とか、口々にひどいことを言う。

 

わたしはそんなの、信じない。だって付き合い始めてすぐに颯太くんに言われたから……。

 

「俺とお前の関係は、なかなか人に理解されない。でも、他人の言うことなんて、信じないでほしい。お前は俺だけ、俺の愛だけ、信じていればいいんだ」……と。

 

みんな知らないんだ、颯太くんがどんなに優しいか、どんなに心を震わせる歌を歌うか、どんなにわたしを愛してくれているか。

 

颯太くんと付き合い始めてから、友だちは次々離れていった。あんたには付き合いきれない、って。

 

でも颯太くんがいるから、一人ぼっちじゃない。

 

颯太くんさえいれば、わたしは幸せ。

 




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