泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第13話>
<第13話>
いつもいろんなお店の車がロータリーを行きかっている吉原の最寄り駅だけど、さすがに午前中はのんびりしている。
今日は月曜日。週の始めの午前中なんて、どこのお店も暇なはず。
ひんやりした風が足もとの枯れ葉を巻き上げていて、裸の首筋が冷たかった。
チェーンのカフェのガラス窓は、道行く人たちを鏡のようにうっすら映し出しているから、その前で立ち止まり身だしなみのチェックをする。
ストッキング、伝線してない。スカートのプリーツ、よれてない。ブーツの紐、ほどけてない。トレンチコートの襟はしっかり立てて、と。オッケー、完璧。
待ち合わせ場所は駅から歩いて2分のファミレス。人数を聞いてきた店員さんに待ち合わせですと告げ、店内をぐるり見渡す。打ち合わせをしているらしいサラリーマンや、コーヒー片手におしゃべりに忙しい、いかにも「下町のおばちゃん」な中年女性ペアに混ざって、窓際の喫煙席に1人で座っているその人を見つけた。
会うのは半年ぶり。
背中の真ん中まであるつやつやのウェーブヘアは、オレンジがかったブラウンに染められ、きゅっと引き締まった体はぴったりした黒いワンピースに包まれている。ウエストは細いのにざっくり開いた胸元からは深い谷間が覗いていて、思わず視線が吸い寄せられてしまう。もう36才だなんてとても信じられない。誰がどう見たって28〜29だろう。
まもなく、アイラインとつけ睫毛に縁取られた目がわたしを捉え、人差し指と薬指に指輪が光る手を振ってくれる。
「ひっさしぶりー。しばらく見ない間に、なんかいい女になったじゃーん?」
「えへへ、ママこそー。この前会った時より若返ってるよぉ、なんでー?」
「なんでだろう。やっぱ恋、してるからかなー」
ママはそう言って、うふふと口もとをほころばせ、ほっぺたを天然のチークでピンクに染めた。
お水とメニューを持ってきてくれたウェイターさんにダージリンティーを注文する時、真っ黒い髪をきっちり七・三分けにしてムースで固めたウェイターさんが、ママとわたしを眩しそうな目で見ていて、ちょっと誇らしくなる。
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