泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第19話>
<第19話>
何度も何度も自分に確認するのに、どうしてだろう。10年前に確かに経験した、頭の奥深くにしっかり封印して忘れようとしていたその記憶が、まるで今まさに起こっていることのように五感を乗っ取っている。
田端さんの顔があの人の顔にしか見えない。わたしの体はいつのまにか腕も脚も胸もお尻もきゅっと縮んで、10才の子どものものになっている。子どものわたしは、大人の男の力に抵抗できない。柔らかい心を守るためのやり方もまだ覚えてなくて、激しい痛みと気持ち悪さに泣き叫ぶだけだ。あの人の声が聞こえる。記憶の中からじゃなくて、リアルな響きを持って耳に流れ込んでくる。
――僕は君が大好きだから、こんなことをするんだよ。ほら、君も気持ちいいだろう?
……あ、ダメだ。もうダメ。
心臓のバクバクが体じゅうを支配して、全身が波打ちだした。息が上手く吸えない。吸っても吸っても、肺がいっぱいにならない。酸素がない。酸素がない。苦しい。このままじゃ死んじゃう。どうしよう。
田端さんはすぐにわたしの異変に気づき、一心不乱にかき回していたものを一気に引き抜いた。
「うららちゃん!? うららちゃん、どうしたの、大丈夫!?」
耳もとで弾ける大声が、遠い。現在が封印したはずの遠い記憶にかき消され、意識と感情は10年前にタイムスリップしたきり戻ってこれなかった。あの人に犯されるわたしが本物で、目の前で怒鳴っている田端さんが夢のように思える。
「とにかく、お店の人呼んでくるからね。ちょっと待ってて!!」
田端さんは乱暴にシャツをひっかけ、ズボンを引っ張り上げてベルトをぶらぶらさせたなんとも滑稽な格好で、個室を飛び出していった。
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