泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第25話>
<第25話>
叱られると思った。怒鳴られると思った。朝倉さんの全身から怒りのピリピリしたオーラが立ち上っていて、いつだって仕事に厳しい人だけど今はさらに、近づきがたいほどの険しさが瞳を光らせている。
よくよく考えたら、クビにされたって仕方ない。接客中に過呼吸を起こすなんて、お店からしたら迷惑極まりないんだもの。
朝倉さんは面接で使う部屋――面接がない時はお客さんの待合室にもなる――にわたしを連れてくると、予想に反して穏やかな口調で切り出した。
「ああいうことは、今までもあったのか?」
「ない、です。さっきのが初めてで、自分でも何が起こったのかよくわからなくて……」
「本当だな?」
びくつきそうになる顎を小さく上下させた。嘘をついてるわけでもないのに、緊張のせいでつい動作がぎこちなくなる。接客が嫌になって、過呼吸のふりをしたんじゃないかと疑われてるのかも。あんな騒動の直後に人の襟首使って大声で怒鳴ってたら、しょうがない。
「そうか。前にもうちで働いてた子でよく過呼吸を起こしてた子がいる。その子は精神科に通っていた。うららにも何か心の病気があるのは間違いない」
幸い、嘘じゃないって伝わったみたい。朝倉さんの目つきはいつも以上に厳しいけれど、きちんとわたしを心配していた。
「一度精神科に行って、診てもらうんだ。必要なら薬も処方してもらって。今日はもう帰っていい」
「はい」
「それに、明日から生休だろ? よかったな、ゆっくり休めて」
「え、生休……」
はっとして壁のカレンダーを見る。わたしは生理がかなり不規則で、毎月来ることもあれば2カ月に1回のこともあるから、生休だからって必ずしも生理が来てるわけではなく、リフレッシュ休暇みたいに使う時もある。今月も生理が来そうな感じはまったくしないから、生休が近づいてることに全然気づいてなかった。
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