泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第28話>

2015-01-18 20:00 配信 / 閲覧回数 : 912 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


 

危険

 

<第28回>

 

帰ってすぐ、着替えるよりも化粧を落とすよりもまず、トイレに入った。友だちと一緒に妊娠検査薬を買ったことはあるけれど、自分で使うのは初めて。体温計みたいな形をしている検査薬のキャップを取り、スティック部分におしっこをかけ、キャップをはめる。心臓がバクバクうるさくて、手におしっこがついたのも気にならなかった。

 

ろくに待つ時間もなく、鮮やかなブルーのラインがくっきり浮かび上がる。

 

「何なのこれ? スペアリブにローストビーフ、こっちは寿司? 今日、誕生日とかじゃないよな?」

 

「ちゃんと、颯太くんの好きなカレーもあるよ」

 

いつものように始発に乗って帰ってきた颯太くんは、ダイニングテーブルに並んだ凝った料理の数々に喜ぶより、驚いていた。右手が耳たぶをいじっている。まずいなぁ、って思った時の颯太くんの癖だ。

 

「えーと、何だろ? 誕生日じゃないし初デート記念日でも初キス記念日でもないだろ。一緒に住み始めた日……も違うし」

 

「ざんねーん、どれもはずれ。正解は」

 

小さく深呼吸してから背伸びして、ピアスの嵌った耳に口を近づける。わざと小声で、ゆっくり一音一音、噛みしめるように言った。

 

「颯太くんがパパになるってわかった、記念日」

 

「は? ……え、ちょっと、それって……」

 

酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせ、必死で言葉を探している。明らかに慌てていた。そんな様子に、さすがの自他共に認める天真爛漫・能天気バカなわたしでも不安になる。

 

もちろんわたしは颯太くんの愛を信じてるし、颯太くんは子どもができたからって逃げ出すような人じゃない。でも、これは若い2人にはとてもとてもとても、大きなことだ。

 

「どういうことだよ。ちゃんとピル飲んでただろ?」

 

なんとか興奮を抑えてる声。おでこにうっすら汗が浮いている。

 

落ち着いて、わたし。こういう時こそ能天気バカでいなくちゃ。

 

「よく飲み忘れるからそのせいかなー、えへへ。ほら、この仕事してると生活が不規則だし。あれ、今日の分? ってなっちゃうんだよね」

 

「えへへって、お前……」

 

「大丈夫。ちゃんと、颯太くんの子どもだよ」

 

「なんでそんなことわかるんだよ」

 

優しく言ったつもりだろうけど、急に赤みを帯びてきた目がわたしを責めている。それに気づかないフリをして、明るく言う。

 

「わかるに決まってるじゃない」

 

「決まってるって……」

 

 

 




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