泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第41話>

2015-01-31 20:00 配信 / 閲覧回数 : 947 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


JESSIE


<第41回>

こんなことをしても、颯太くんは戻ってこない。二度とわたしの前に現れることは、ない。

 

「いいや、もう」

 

確認するように呟いた。なぜか口もとがにやっと笑いの形を作って、変な顔で笑っているわたしがドレッサーの鏡に映っていた。

 

サンダルをつっかけ、のろのろと外へ出る。鍵はかけない。夕暮れ後のマンションは不気味なほど静まり返っていて、外廊下を通る人の姿はなかった。ここは12階だての10階だから、地上を彩る明かりは違う世界のものみたいに遠い。

 

ひゅんと冷たい風が耳の横を通り過ぎていく。もう冬は目の前まで迫っている。

 

これ以上季節が進まなければいいと、冬も春も夏も秋も来なければいいと願いながら、外廊下のフェンスをよじ登る。

 

颯太くんがいれば幸せだった。怖いものなんてひとつもなかった。でもその幸せは、こんなにもはかないものだったんだ。そりゃ、全然疑わなかったわけじゃない。もしかしたらって思ったことは何度もある。

 

でも不安にフタをして、きれいなところだけを見ていた。気持ちのコントロールは得意だけれど、すみれさんの言う通り、それって結局は逃げただけだった。




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