泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第41話>
<第41回>
こんなことをしても、颯太くんは戻ってこない。二度とわたしの前に現れることは、ない。
「いいや、もう」
確認するように呟いた。なぜか口もとがにやっと笑いの形を作って、変な顔で笑っているわたしがドレッサーの鏡に映っていた。
サンダルをつっかけ、のろのろと外へ出る。鍵はかけない。夕暮れ後のマンションは不気味なほど静まり返っていて、外廊下を通る人の姿はなかった。ここは12階だての10階だから、地上を彩る明かりは違う世界のものみたいに遠い。
ひゅんと冷たい風が耳の横を通り過ぎていく。もう冬は目の前まで迫っている。
これ以上季節が進まなければいいと、冬も春も夏も秋も来なければいいと願いながら、外廊下のフェンスをよじ登る。
颯太くんがいれば幸せだった。怖いものなんてひとつもなかった。でもその幸せは、こんなにもはかないものだったんだ。そりゃ、全然疑わなかったわけじゃない。もしかしたらって思ったことは何度もある。
でも不安にフタをして、きれいなところだけを見ていた。気持ちのコントロールは得意だけれど、すみれさんの言う通り、それって結局は逃げただけだった。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。