泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第42話>
<第42回>
颯太くんを信じることでしかわたしは幸せになれなかった。そしてその颯太君を失ってしまった今、どうやって生きていったらいいのかわからない。
迷いはなかった。一気に体を傾けるとひゅんっと世界が回転して、ひんやりした夕闇がわたしの体を受け止めてくれた。真っ暗だった。地獄へと続くブラックホールのように、真っ逆さまに落ちていく。
さよなら。
あなたは違ったのかもしれないけど、わたしは大好きだったよ。颯太くん。
ばさっ!! と鼓膜を突き破るような鋭い音と衝撃が、いっぺんにきた。背中から足から腕から、体じゅうが痛い。その痛みこそが生きることを諦め、かすれていた意識を呼び覚ます。
最初に感じたのは、絶望だった。まさか死ねないなんて、失敗してしまうなんて。状況が理解できるまで数秒かかった。わたしの体はアスファルトに叩きつけられることなく、転落防止のネットに引っかかって、宙ぶらりんだった。マンションの外廊下や階段がいつもとは逆さまに見える。ロープでこすれたんだろう、スカートがめくれた膝の裏が痛い。血がにじんでいるのかもしれない。何階分ぐらい落ちたのかな。
その時体の内側で何かがぴくんとした。まだそれは小さくて心臓の鼓動を感じるわけないのに、たしかに意思を持って動いた。
わたしはここにいるよ、と。
「あぁ」
涙で上ずった声が出て視界がぼやける。蛍光灯の光を受けて光っている外廊下のフェンスも、星ひとつない真っ黒い夜空も、落ちた時の大きな音に気づいて駆けてくる誰かの姿も、熱い涙に溶ける。お腹に両手を当てた。
どんなにわたしが不幸でも、どんなにわたしが辛くても、この子には関係ない。無関係なこの子をわたしは巻き込もうとした。自分の勝手な感情のせいで、殺そうとした。
「ごめんね」
救急車に乗せられるまで、何度も何度も呟いた。許してもらえることを期待してるわけじゃなく、自分のための呪文じゃなく、赤ちゃんのための本物の言葉だった。
颯太くんがいなくなっても1人じゃないことに気づいて、涙が止まらない。
泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<完>
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