泡のように消えていく…第三章~Amane~<第32話>
<第32回>
「なんで俺のこと頼ってくれねーんだよ。心開いてくれねーんだよ。俺、そんなに頼りない? 年下だし?」
「そんなことは……」
「お前がちゃんと俺を頼ってくれてたら、俺たち別れないで済んだのかもしれねーんだよ」
別れた理由は2つあった。
ひとつは元不良のくせにまっすぐでピュアな、密度の濃い飛鳥の愛情が眩し過ぎたこと。
今まで付き合ってきた男たちは実際的にはセフレでもヤリたいだけで好きだと言って来たり、平気であたし以外の女とも寝るような奴ばっかりだったから、今までの人と違い過ぎる飛鳥に戸惑った。
虐げられて育ったあたしには自己肯定感が決定的に不足している。自分のことを大事にできないし、極端なことを言えばいつ死んだっていい。自殺するほどの理由も勇気もないからそうしないだけ。そんなあたしは他人から全肯定され愛されても、素直にその気持ちを受け取れないのだ。
もうひとつは、セックスの問題。エスがなければセックスをしたいと思えないあたしにとって、飛鳥からぶつけられる健全な若い男の子の欲求は苦痛だった。
半ば仕方なく応じていたことに、飛鳥も気づいてたんだろう。やがて飛鳥は、会ってもあたしを求めなくなっていった。抱き合って眠っても、唇や頬にキスするだけで肝心な部分に触れてこない。
今から思えば、あたしはどんなに飛鳥を傷つけていただろう。正面きって、ちゃんと話し合わなかったのも良くなかった。
別れはあたしから告げた。
飛鳥は少しだけ泣きそうな顔をして淡々と別れを受け入れた。
その代わりこれからも友だちでいてくれと言われて、頷いて、今でもこうしてあたしの世話を焼いている。飛鳥だって遊びたい盛りの24才なんだから、さすがにあたしと別れてから一度も女の子と関係したことがないわけじゃないだろうけれど、友だちに戻ってからも飛鳥の気持ちが離れたと感じたことは一度もない。
いつのまにか、付き合っていた期間よりも友だちでいた期間のほうが長くなってしまった。それでもあたしたちは相変わらず、心の深いところを寄り添わせることができないままだ。
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