泡のように消えていく…第三章~Amane~<第36話>
<第36話>
JRから私鉄に2回乗り換え、一度も降りたことのない駅で降りた。
駅前広場から4回も澪輝に電話をかけ、指示を仰ぐ。路地と言ってもいいほど道幅の狭い小さな商店街を抜け、車通りが全然ない住宅地を通り過ぎ、駅からたっぷり15分は歩かされた。
冬場の夜に、しかも歩きにくいハイヒールの足でこんなことをさせられるのは苦行に等しい。それでも、タクシーを使うわけにいかないことぐらいあたしだってわかってる。
澪輝の家――いや、本当に家なのかどうかもわからない――は、デザイナーズマンションというんだろうか、一応都内だけどひどく辺鄙な土地には似つかわしくない、コンクリート作りの洒落た建物だった。指定された部屋番号をオートロックの機械に打ち込む。
「入って」
ドアを開けた澪輝が短く言い、素早く中に体を滑り込ませる。
澪輝は周りの住人に見られることなんてなんとも思ってないような、堂々とした落ち着いた動きでドアを閉め、鍵を二重にかけた。
中に入るなり、大音量のクラブミュージックと酒と煙草の臭いに包まれる。少し、ガンジャも混ざってるかもしれない。家ごと振動しているみたいに激しく揺れ動く空気の向こうに、幾人もの人の気配を感じた。
「ここ、防音?」
「そう。外に全然音、聞こえなかっただろ」
得意げに言い、リビングへあたしを促す。普段は鋏を握っている節の太い手がリピングへ続くドアを開けると、音と臭いがいよいよ濃くなって嗅覚と聴覚を貫いた。
ひなつとミッくんと、七華とその彼氏がいた。
でも誰も、あたしに気づかない。
胸のところがふわふわしたベビードールの下着を半分脱がされたひなつが思いきり股を開き、ミッくんが一心不乱にそこを舐めている。七華は上半身服を着たまま、彼氏と座位で繋がって絶え間なく腰を動かしていた。ひなつの声が、七華の声が、七華の彼氏の声が、コンクリート打ちっ放しの部屋の中を飛び交っている。
大音量の音楽はこの声を隠すためだったのだ。ひなつの露わになった左胸と規則正しい動きを続ける七華のお尻が、瞳から離れない。
ここ数年遠ざかっていたその感覚が強烈な勢いでこみ上げてきた。
普通のセックスにまったく欲情しなくなったあそこがあっという間に潤い、ショーツが濡れて気持ち悪い。薄いショーツの隙間を塗って太腿を流れ落ちた滴を隠すように、慌ててきゅっと足を縮めた。
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