泡のように消えていく…第三章~Amane~<第37話>
<第37話>
「あたし、エスはやらないって言ったはずだよ? もうやめるんだって」
覚悟はできていたが、忘れかけていた激しい性欲に襲われ、戸惑いながらそう口にしていた。
今すぐひなつたちが口にしているものと同じものが欲しくて、欲しくて欲しくて欲しくて欲しくてしょうがない。今エスをくれると言われたら、そのためなら焼きごてを押し付けられようが髪の毛を焼かれようが革の鞭に一万回打たれようが、なんだって耐えてしまう。一瞬でそんな気分になっていた。
澪輝は涼しい顔で、ごく穏やかに言う。
「これはエスじゃないよ」
「似たようなものでしょ?」
「大量に入ったんだ。今回だけ特別サービス。次からは金取るけど、雨音なら安くしとくよ」
あたしの言葉を無視して澪輝は鮮やかなピンクの錠剤を取り出す。色気もそっけもないエスと違って、エクスタシーは興味がなくても思わずやりたくなっちゃうような、キュートな見た目だ。マカロンみたいなかわいいピンク色に、ハネの生えたハートの柄が入っている。
心臓がどくどくして喉が火照って、あそこからは狂ったように蜜が滴り落ちていた。
自分に禁じていた衝動がタガを外れて一気に吹き上げる。今すぐ澪輝が持ってるそれが欲しい。
バキバキにキメて澪輝とセックスしたい。したいしたいしたい。
自分の意思と関わりなく欲望に走り出す体に、冷静な恐怖を覚えていた。その冷静な部分が、あたしに言わせた。
「いらないよ」
「ヤセ我慢?」
「我慢じゃないし」
「本当はやりたいんだろ?」
ほらよ、とピンクの錠剤が乗った手のひらを押し出す澪輝が、貧しい人にパンを与えるイエス様に見えてしまう。
ひゃあああ、とひなつが何度目かのオーガズムに達したんだろう、よだれをまき散らしながらブッとんだ喘ぎ声を上げる。
ここ数年しんと静まり返って冷えたまま、一切疼くことのなかった体の芯が、ひりひりしている。澪輝がくれるこれを飲めば、ひなつと同じ快感が手に入る。
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