泡のように消えていく…第三章~Amane~<第42話>
<第41話>
強引な優しさを発揮するすみれ。うららに正面きってぶつかっていったすみれ。うららに襟首掴まれたすみれ。それでもうららのためにカンパを集めようとしたすみれ。ゴキブリの死骸の前で茫然としていたすみれ……。
いろんなすみれが、瞼の裏に浮かんでは消える。どのすみれも、西原園香とかいう子とまったく繋がらない。
でも制服を着た、おそらく中学の卒業アルバムから引っ張ってきたであろうその小さな写真は、今より幼くは見えても明らかにすみれだった。すみれにもし妹がいたら、ちょうどこんな感じだろう。
「マジ、ありえないんだけどー。殺人犯と一緒に仕事してたのうちら。こっわー!」
新人軍団の一人が大袈裟に両肩を抱く仕草をする。言葉と裏腹に顔はまったく怖がっていなくて、楽しそう。
にやにや、にやにや。待機室を占めている歪んだ笑いが、他人を嘲笑う浅はかさが、あたしを苛立たせる。
別に陰口は良くないと正義を気取る気はないけれど、この子たち、揃いも揃ってなんて暇なんだろう。そりゃ店は暇だが、もうちょっと他にすることはないんだろうか。どれだけバカなんだろうか。
「えー、でも、なんかまだ信じられないなぁ」
「何言ってんの、この写真間違いなくすみれさんじゃん!」
「そうだけど。すみれさん、優しいんだもん。最初に挨拶した時、わからないことがあったらなんでも聞いてね、って」
「それあたしも言われたー」
「それはさ、ポーズだよ、ポーズ。自分に後ろめたいことがあるから、過剰にいい人を演出してるんだって」
「なるほど、そっかー!」
「でもさ、本人はすっかり世間から忘れられてるつもりでも。こういうのってわかっちゃうもんだね。今はネットがあるんだもん、怖い怖い」
「しょうがないよ、こんなでっかい事件おこしちゃったんだから。一生つきまとう過去だよね」
「あんたもさ、気を付けたほうがいいんじゃないの? すみれさんの私物籠にゴキブリ入れたの、あんたでしょー?」
あんた、と言われたみひろがそんなことなーい、と笑って首を振る。
絶対嘘だ、嘘うそ、とみんなも笑ってる。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。