泡のように消えていく…第三章~Amane~<第43話>
<第42話>
「そういうことすると、刺されるよ! なんてったって、相手は人殺しなんだから」
「彼氏メッタ刺しだもんねー。よくやるよー」
「なんか、彼氏にだいぶ貢いでたんでしょ? お嬢様学校に通ってたくせに、デートクラブで金稼いでたんだって」
「何デートクラブってー?」
「うっそー知らないの!? 今で言うDCだよ」
「ねぇ。そんなに、楽しい?」
自分でもびっくりするほど低い冷えた声が出た。携帯片手に騒いでいた新人軍団がさっとこっちを見て、静まり返る。
今のあたしはよほど怖い顔をしているんだろう。なんてことだ、あれだけ偽善は嫌いだったくせに、今あたしはすみれのために本気で怒っている。
「何黙ってんのよ。答えなさいよ」
「……」
「そんなに楽しいかって聞いてんだよ。人の過去ほじくり返して、人のこといじめて」
「何言ってんですか。悪いのはすみれさんですよ?」
鋭い声を出したみひろを睨み返すと、年の頃はあたしと同じくらいだろうか、メイクで派手に作り込んだギャル顔がうっと怯んだ。
「ROMYって、あんたでしょ」
「え」
「みひろだから、ロミー? ひねりなさ過ぎ。もっとマシなハンドルネームつけられなかったわけ?」
「……だからなんなんですか!!」
みひろが、ROMYが、逆ギレする。
激しい感情に耐性がないんだろう、早くも目がうるうるしていた。
「いけないのはすみれさんですよ!! 人殺しは、いけないことでしょう!?」
「あー、そりゃあいけないことだよ人殺しは。でもそれを裁く権利が、あんたにあるの?」
ぐっと言葉に詰まるROMY。あたしはROMYに向かって、待機室に集まるアホ共に向かって声を大きくした。窓を叩く強まりだした雨に負けないように。
「所詮、10年も前のことだろーが。今さら過去を持ち出して本人責めて、どーすんだよ。何がしたいんだよ。それで死んだヤツが生き返るのかよ? みんなここで働いてる時点で、何か抱えてんだろーが。それをほじくり合って人前に晒したところで、何にもなんねーんだよ」
途中からすみれのためだけじゃなくて自分のためにも言っていた。
他人同士が適度な距離を取り合い、学歴も過去の経歴も問われず働ける風俗は、何かを抱えて生きなければならない人間にとってのセーフティーネットだ。
たとえ働いたことですべてが解決しなくても、何も解決しないのだとしても、その環境を侵されるわけにはいかない。
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