泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第3話>
<第3話>
前回帰る時、店長からもっと遅い時間までいられないかと持ち掛けられた。
遅い時間のほうが、お客さんが多いからって。
お金は喉から手が出るほど欲しい、でもわたしは桃花やリミみたいな女の子とは違う。深夜帰宅も無断外泊も補導も一切ない、完璧ないい子のわたしにそんなことはできない。
親に心配かけたくないとか親を悲しませたくないとかいうのは建前で、本当は心配かけたり悲しませたりすることに伴う面倒くささが煩わしいだけだ。
「えーっマジ、それ40万もしたのぉ!?」
リミの甲高い声が鼓膜をびんびん、刺激する。
リミも桃花も、今日はまったく稼げてないのに、テンションが高い。
お金が欲しくて欲しくて仕方ないわたしと違って、2人にすればここに来るのって部活みたいなもので、待機室で楽しくしゃべってできれば、あんまりキモくないお客さんについて、その上でお金も入れば万々歳って感じなんだろう。
「へっへー、すごいっしょ」
「そういうのってさぁー、どこ置いとくの? 家にあったら親に怪しまれない?」
「彼氏んちに決まってるっしょ。つーか家なんて、もう2週間も帰ってないしー」
ケラケラ笑う桃花の唇は、ピンクのグロスで縁日のあんず飴みたいにねっとりコーティングされている。
出勤する時は駅のトイレで制服から私服に着替え、待機室に入ったらまず、大人っぽく見えるようにメイクをしておくのがこの店のルール。
接客に使うラブホテルは18才未満立ち入り禁止だし、ホテル街を制服で歩いてたら補導員に声をかけられかねない。わたしたちはセックスすら咎められる年齢なのに、いっぱしに大人の服を着て大人の顔をして、大人のやり方でお客さんに奉仕し、お金を稼ぐ。
ずっとそんな生活をしていると、いつのまにか本当に大人になってしまうのか――それも親や先生みたいな大人じゃなくて、くたびれたホステスや風俗嬢のような種類の大人に――
桃花もリミも、制服姿がまるで想像つかない。顔も同級生の子たちより、ずっと老けている。
大人っぽいんじゃなくて、老けているんだ。
ここに長くい続けたら、わたしも桃花やリミみたいになっていくのかもしれない。
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