泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第5話>

2015-03-22 20:00 配信 / 閲覧回数 : 962 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第5話>

 

「琴乃ちゃんってさぁ、高校、どこ?」

 

リミが衝立の向こうを気にして声をひそめた。

 

待機室と事務所とは、病院にあるような白い衝立1枚で区切られているだけ。女の子同士、学校名や本名を教え合ったり、メアドを交換することは禁じられている。

 

「琴乃ちゃん、黒髪だし真面目そうだしさ、完全にうちらと人種違うじゃん? 絶対にこういうとこで働くタイプに見えないからー、不思議だなって桃花と話してたのー、ねっ」

 

相槌を求められた桃花が、そうそうー、とポテチに次いでチョコチップクッキーの袋を開けながら言う。

 

高校の名前を言ったら、この2人は驚くだろう。わたしが通っているのは県内でもトップクラスの名門お嬢様私立校だ。

 

別に、何がなんでも進学校に行きたかったわけじゃない。ただ、昔から勉強ができて、いつのまにか頭の後ろに貼られていた『優等生』のラベルにおとなしく従い、ごく真面目に勉強していたら、気が付けば今の高校にいたってだけ。

 

高校に入ると、中学時代は常にトップクラスだった成績は、中の上がやっとだった。この学校にはわたし以上に頭のいい子なんてごろごろいる、今まで自分は勉強ができるって思ってたけど、そんなの大したことない……。わたしはいったい、なんでこんな高校に来ちゃったんだろう? なんのために受験勉強をしたんだろう? 夢も目標もなかったら、勉強ができることなんて、まるで意味がない。

 

「店長に怒られますよ」

 

わたしも衝立の向こうを気にして声を抑えると、リミが親しげに肩を小突く。

 

「いーじゃーん、そんなカタいこと言わないのー」

 

「でも面接の時に、店長に……」

 

「ダイジョーブ、誰もあんなの守ってないし。ていうか琴乃ちゃん、メアド教えてよー」

 

「琴乃ちゃん、お仕事」

 

衝立の向こうから店長が顔を出して、一瞬だけ桃花とリミを睨みつけるから、2人そろってひょいと首をすくめた。今の、店長にはしっかり聞こえてたらしい。生活指導の先生と校則違反の生徒みたいだ。

 




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