泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第11話>
<第11話>
<2014年 すみれ>
仕事を夕方からにして、昼下がりのカフェでうららちゃんと待ち合わせた。
コーヒーも紅茶もそこそこお高い料金設定のせいか、天井が高く広々とした店内はぽつぽつ席が埋まっているだけ。大声ではしゃぐギャルやひっきりなしに口を動かすおばちゃんのグループはいなくて、落ち着いた雰囲気。シリアスな話をするにはぴったりの場所だった。
約束の5分前に現れたうららちゃんは、心労なのか、つわりのせいか、その両方か、すっかりやつれてしまっていた。茶色い髪にはツヤがなく、肌は乾燥して荒れている。そのお腹はまだぺったんこで、命が宿ってるなんてとても信じられない。「やだー、まだそんな時期じゃないですよー」
わたしの不躾な視線に気づいたうららちゃんが、お腹に手を当てくすりと笑う。無理して作られたものでも、笑うエネルギーがあるだけまだマシだとホッとする。
「体調、大丈夫?」
「はい」
「つわりは辛くない?」
「少し」
「彼氏やお母さんからは連絡、来た?」
少し、間があった。
薄い笑みを唇に張り付かせたまま、うららちゃんの華奢な手がアイスカフェラテのストローをかき混ぜる。
待機室で話した時にはわたしが言い過ぎたせいもあって、お互いすっかり興奮してしまった。襟首掴んで、自分が正しいと信じていることをなんとしてでも曲げないうららちゃんは、間違ってることをしているにも関わらず、むしろ間違ったことを、信念を持ってしているからか、きれいだった。
今のうららちゃんは、怒ったり憎んだりもできないほど疲れているのだと思った。
「どちらも、なしです。すみれさんに言われた通りになっちゃった」
「そ、っか……」
「最低ですよね。こういう時って彼氏のほうはダメでも、普通、親のほうは助けてくれますよね……。わたし、ママのこと本当に大好きで尊敬してたのに」
かける言葉が見つからない。どんなにひどい親だろうがこの子にとっては唯一の親なんだ。自ら家族を捨てたわたしが、家族に捨てられた人の辛さを理解できるわけがない。
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