泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第13話>
<第13話>
「うん。もう反対しない」
「それは応援してくれるってこと?」
嬉しそうに目を細める。
本当に素直な子だ。だからこそ、その素直さにつけこむ男が許せない。
前の店でもその前の店でもその前の前の店でも、うららちゃんに似た子はいた。みんな、わたしの言うことを聞いてはくれなかった。彼女たちの後ろでは、わたしの奥で今も生きているあいつがニヤニヤしている気がして、なんとかしたくて歯がゆかった。
うららちゃんがこのまま子どもを産んで、男性依存体質から抜け出して自分の足で歩けるようになったら、わたしも自分の問題を少しは消化できる気がする。
「あのね。わたし、うららちゃんのためにお店でカンパ、集めようと思って」
たれ目がちの目が大きく見開かれ、わたしをまじまじ見つめる。
「カンパって……、みんなでお金出し合う、あれですか!?」
「そう。わたし一人にできることじゃ限られてるし」
本当は、借金があるわけでも男に貢いでいるわけでもないから、それなりの貯金はあるし、この子に最低限の生活費と出産費用を貸すだけの余裕はある。でもそこまでしてもらうのは、うららちゃんだって望まないだろう。
それに、わたし1人からの重すぎる援助よりも、みんなの厚意を少しずつ集めてプレゼントしたかった。風俗なんて場所でもうららちゃんを気にしてくれている人がいること、彼氏にべったり寄りかかる必要のないほどみんなに支えられていること、伝えたかった。
「そんな……、困ります」
「なんで?」
「だって。雨音さんとか、絶対反対するだろうし。他にもそういうの、よく思わない人はいるだろうし……わたしは嬉しいけれど、すみれさんの店での立場が」
「遠慮しないの。今のままじゃうららちゃん、どっちみちお金、大変でしょう?」
ぐっと言葉に詰まる。
今日のこの場をセッティングするためのメールのやり取りでも、昼間のバイトをしようにも妊娠してると言っただけで断られてしまうって、こぼしてたっけ。
器用に自分を偽る術を持たない、バカ正直なまっすぐさを応援したくなる。
「誤解しないで。これはうららちゃんのためじゃなくて、わたしのためでもあるの。うららちゃんがママになったところ、見てみたくって」
「すみれさん……?」
うららちゃんが不思議そうに言葉を詰まらせた。
自分の勝手な気持ちを押し付けて悪いけれど、やっぱりうららちゃんはわたしの希望だ。
いろんな事情があってソープに流れてきて、胸を張った生き方なんてできない女でも、やればできるんだって。ちゃんと幸せになれるんだって。証明してほしかった。
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