泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第16話>
<第16話>
「てかさー、ソノ、ぶっちゃけ彼氏とどこまでいったのよー?」
のりちゃんが声をひそめて腕を小突く。
田舎だから名門校だからか、女子がこんなにいる割には、セックスを経験している子は少ない学校だ。とっくに21世紀が来てるっていうのに、見た目も経験値も、30年前からストップしているみたい。
「そんな。のりちゃんやさっちーが期待してるようなこと、ないってば」
「嘘つけ。もう、2カ月も付き合ってるんでしょ? 相手は大人だし、まさかキスだけってわけないでしょ」
その後しばらく、のりちゃんとさっちーにさんざん追求された。
結局、今日も適当にごまかしちゃったけど……。
のりちゃんは予備校のクラスメイトに、さっちーはお兄さんの友だちに、それぞれ恋しているけど進展のない片思いだ。辛い恋を抱えている2人の前で、自分だけ幸せな話をするのは憚られる。
気を遣ってるんじゃなくて、仲良し3人組の中でわたしだけが2人と『違って』しまうのが嫌だった。
2人に挟まれ、笑いながら思う。わたしはいったい何が足りないんだろうと。
何が不満で、この平和で穏やかな日常から、自らはみ出してしまうんだろう?
月曜と木曜と土曜がデートクラブ。水曜と金曜が予備校。残りの火曜日と日曜日が、ハルくんに会える日。週に2回、ほんの数時間だけど何よりも大切な時間だ。
マンションのエントランスをくぐり、エレベーターで8階に上がる。チャイムを鳴らし、ハルくんの笑顔が出迎えてくれるのを待つ。もし今のわたしが小型犬だったら、しっぽをびんびん、ちぎれるぐらい振っているだろう。
やがてスリッパを履いた足音が近づいてきて、ドアが開く。陶器のような白いつるんとした肌に、クールな切れ長の目。何度見てもうっとりするほどきれいな顔だ。
「待ってたよ。ほら、上がって」
クツを脱ぎ終わらないうちに、会いたかったと抱きしめられた。
ストレートに表現される愛情に、心臓が甘やかな鼓動を奏でる。
わたしも会いたかった、ものすごく。ハルくんに会っている間は一時間が一分に感じられるほど速いのに、ハルくんに会っていない時間は一時間が一日に、一日が一年に思えてしまう。
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