泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第17話>
<第17話>
ハルくんのマンションは、大学生の身にしては贅沢な広めの1LDKだ。バス・トイレもちろん別、コンロはガスで2口ついてるし、ウォークインクローゼットも使いやすい洗面台もある。ベランダからの眺めもいい。家賃は半分、実家に負担してもらっているという。隣県で建設業を営んでいるというハルくんの実家はなかなかのお金持ちだ。
もっとも、お金持ち『だった』と、過去形になってしまうかもしれないんだけど。
「はい。これ、昨日の分」
昨日の稼ぎを渡すと、ハルくんは笑顔で受け取る。そして、芸をした動物にするように、抱きしめて大袈裟なぐらい褒めてくれる。
「ありがとう。ほんと園香はいい彼女だよ」
「わたしがハルくんのためにできることって、これぐらいしかないし」
「それが誰にでもできることじゃないんだって。普通、なかなかここまでしてくれないよ」
「そう……、ねぇ、お家のほうは、落ち着きそう?」
ハルくんの胸にうずめていた顔を上げる。
部屋の中は遮光カーテンが閉じられ、電気もついてなくて薄暗い。ハルくんの表情がよく見えない。
ハルくんに初めて会った時、なんでこんなに背が高くて足が長くて、芸能人みたいに格好いい人が田舎のコンビニでバイトしてるんだろうって、びっくりした。
そして警戒もした。
わたしには格好いい男子に傷つけられた過去がある。それ以来、華やかな人やモテる人が苦手になっていた。
中二のバレンタインだった。一年生の頃から思いを寄せていた彼に勇気を振り絞ってチョコを渡したら、その場でつっ返された。
「えーっと、西原さんだっけ? 付き合って、って本気で言ってるの? 俺が君なんかと付き合うわけないじゃーん。俺と吊り合うなんて、ちょっとでも思ってる? だとしたら大した自信だよね、その顔で」
彼はヘラヘラ、笑っていた。
言われたことそのものよりも、そこまで言われてもすぐには彼を嫌いになれない、彼の言葉を嘘だと信じたい、未練がましい自分がショックだった。
卒業して別々の高校に進学して会わなくなってからは、さすがにその未練も薄れ、やがて消えたけれど、周りの女の子みたいに合コンしたり、他校の文化祭にナンパされに行ったり、そういうことはできなかった。女としての自分に自信が持てなかったし、また誰かを好きになって、受け入れてもらえないのが怖かった。
すっかり、恋に臆病になってた。
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