泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第29話>
<第29話>
「うーん。そうですね、やっぱりアクションとか、サスペンスっぽいのは女の子は敬遠しちゃうんじゃないかな。ディズニーや、コメディっぽいのが無難かも」
「なるほど! ディズニーね。それは考えたことなかった! ありがとう。すみれちゃんは本当にいい子だね、いつも僕の話、一生懸命聞いてくれてさ」
田中さんの細い目が糸みたいになる。
いい子なのは当たり前だ。だって、必死でそうなろうとしているんだもの。今もいい子のすみれとして、にっこり笑いかける。
わたしは過去に許されざる罪を犯している。
その罪から逃れるには、あの町から遠く離れた東京で大都会の波にのまれて生活すること。西原園香という名前を捨てること。
そして、誰もあんな恐ろしい犯罪とローズガーデンのすみれを結びつけないように、完璧ないい人になることだった。
いい人ぶりっこ、なんて雨音さんから言われた。
何も全部が偽善ってわけじゃないし、特にうららちゃんのことでは本当に力になってあげたいと思ってる。けれども、たしかにわたしは、いい人の仮面を被って生きている。
でも、別にいい。
あの人はわたしのこと、何にも知らないんだもの。わたしだって、雨音さんのことを何も知らないように……。
沙和さん主催の研修で見た雨音さんの背中を思い出す。
見ているだけで痛みが伝線しそそうな、生々しい火傷の痕……。
雨音さんだけじゃない。風俗が初めてなのにソープに来てしまった知依ちゃんだって、永久ナンバーワンの沙和さんだって、きっとみんな、何かの理由を背負ってここへたどりついた。
聞くわけにはいかないけれど。
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