泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第31話>
<第31話>
待機室に戻ると携帯をいじっていた雨音さんが一瞬だけ顔を上げ、すぐに視線を画面に戻した。謝る気はなく、徹底的に無視するつもりらしい。再び燃え上がりそうな怒りを押さえつけ、雨音さんから離れて座る。
カンパ、どうしよう。
奈美ちゃんは無理だし、雨音さんは論外。知依ちゃんと沙和さんを除いたら、他に協力してくれそうな人が思いつかない。
うららちゃんにあそこまで言った以上、ここで諦めるわけにはいかないのに、すっかり弱気になっていた。
無言のまま互いにけん制しあっているような2人きりの待機室の中、廊下からボーイさんたちの威勢のいい挨拶がやけに大きく聞こえてきて、時間が経てば経つほど空気は重たく沈んでいく。雨音さんがふいに立ち上がり、喫煙室に入っていた。
わたしは小さく息をついて壁時計を見やる。受け終了の時間まで、あと1時間もない。もう1本、欲しいのに。
お金が欲しくてやっている風俗じゃないけれど、夢も目標もないわたしの唯一の生き甲斐は、お金を稼ぐことになってしまっている。お金に依存していると言ってもいい。
こんな生活、いつまで続けられるんだろう。
もう27才。この業界では決して若いとは言えない。
30才に向けてカウントダウンは始まってるのに、ちっとも先が見えない。大して欲しくもないお金を稼ぐ以外に、やりたいことなんてない。
「お疲れ様でーす」
元気のいい挨拶と共に待機室に入ってきたのは、新人のみひろちゃんだ。奈美ちゃんと同様、最近たくさん入ってきた新人軍団のうちの一人で、歳はたぶんわたしと同じくらいか、少し年下。猫っぽい吊り目は少し印象がきついけれど、金髪のロングヘアがよく似合う可愛い子だ。大きな声でよくしゃべるから、新人軍団の中でもすっかりリーダー的存在になっている。
「あれー、すみれさん、まだ上がってなかったんですかー?」
「うん、今日はラストまで」
「昨日もラストまでいましたよねー? ほんと、頑張り屋だなぁ。えらーい!」
他にすることがないから出勤しているだけで頑張ってるわけでもえらくもないのだけれど、とりあえず合わせて笑っておく。鏡の前で髪の毛をとかした後、みひろちゃんがすぐ隣に座る。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。