Yumika〜風俗嬢の恋 vol.2〜<第8話>
<第8話>
十二時から夜七時までの七時間勤務の末、手にしたのは一万八千円。五枚のお札で安物の財布はふっくら、気持ちよく膨らんでいる。
あたしは別に借金はないし、ヒモを飼ってるわけでもないし(ホストの彼なんてある意味ヒモよりタチ悪いかもだけど)、やよいのように夢のためにお金が必要ってわけでもない。
ただ、ずっと体を売って生きてきたもんだから、今さら普通の仕事をするのが、真面目に生きるのが、怖いだけ。真面目に働くことは地獄で責め苦を受けるようなものだとしか思えない。
こんな生き方ずっとは続けられない、若いうちだけだって、わかってる。
わかっていても、じゃあ明日から頑張ろうというエネルギーはなく、夢や目標と言えるものも見つからず、毎日はダラダラ過ぎていって、稼いだお金はいつのまにか洋服や化粧品やバックやらに姿を変えている。
小田急線沿いのとある駅で降りて歩いて十分、築十二年のマンションの三階が、あたしと統哉の愛の巣だ。
ドアを開けると当然、真っ暗。壁を探って電気をつけると、きちんとベッドメイキングされたシングルベッドと塵ひとつ落ちてないフローリングと、ぶりの照り焼きと味噌汁とかぼちゃの煮物がラップして置かれたテーブルが目に入る。ご丁寧にランチョンマットまで敷いてある。純和風の食卓なのに、なぜかオレンジのギンガムチェックってところが、たまにキズだけど。
テレビをつけ、ランチョンマットの端っこに置かれたメモを確認する。
『この前裕未香が和食食べたいって言ってたから今日は和食にしたよー。田舎のお母さん風だよ♪ ごはん炊いてあるからねっ』
ラップをかけた皿を順番にあたため、お茶碗にご飯をよそう。芸人にドッキリを仕掛けるっていうあんまりおもしろくないバラエティ番組を見ながら、箸で魚の身をほぐす。普通に、おいしい。あたしの母親は全然料理を作らない人だったからおふくろの味なんてわかるはずもないのに、おふくろの味だなぁ、と思う。
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