泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第36話>
<第36話>
「お兄ちゃんはひどい! なんで会ったこともない人を変態とかロリコンとか決めつけるの?」
「顔だよ顔。てか、美月だって会ったこともない人をいい人だって決めつけてんじゃん」
「美月のは決めつけてるんじゃなくて、本当のことなの!!」
美月が助けを求めるような視線をわたしに向けるけど、気づいていないフリをする。家に帰ってもさっき見たものでが頭の中をぐるぐるし続けていて、平和過ぎてウザい家族の団らんの中に入っていく気にはとてもなれない。
雅臣と美月の不毛な口喧嘩は今夜も繰り広げられていて、今日は美月の好きなアイドルを雅臣が変態のロリコン野郎だと言い出し、美月がキレているらしい。雅臣はなんでもかんでも変態のロリコン野郎にしたがるけれど、6年生といえばそろそろ性に目覚める時期だ。あんな子どもの頃から変態のロリコンだの言っていると、将来が思いやられる。デートクラブで若い女の子を買うような大人にならないことを願うばかりだ。
「あんたたちいい加減にしなさい! 今何時だと思ってるの!!」
くだらない喧嘩はお母さんの怒鳴り声で幕を閉じた。雅臣が反抗的に唇を尖らせ、美月が涙目になってリビングを出て行く。お母さんがついでに、テレビの前でぼんやり携帯をいじっているわたしを見やる。
「園香も早く、お風呂入って来なさいよ。お湯、冷めちゃうわよ?」
今入る、と言って腰を上げる。逃げるように自分の部屋に入り、電気もつけないままベッドに寝転んだ。しんとした暗闇に、少し心が落ち着く。
携帯のディスプレイが明かりのない部屋を照らす。あの後5回もかけているのに、ハルくんは一度も電話をかけ直してもこなければ、メールすらくれない。ひょっとしたらこのまま二度と連絡を取れなくなるんじゃないのか。まさかの恐怖がこみ上げてきて、目の裏で桃花とリミが笑う。
『それ、絶対ダマされてんじゃん』――
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