泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第39話>
<第39話>
暇な日だったものの、日が落ちてから仕事が2本続いた。1本はロングコース。仕事に集中し、ひたすらあんあんといやらしい女を演じていたら、嫌なことを少し忘れられた。
演技っぽさ丸出しの大声を上げ機械的に腰を振っていれば、いつのまにか頭の芯が真っ白になって、セックスのためだけに作られたロボットのような気持ちになれる。
何年も風俗で働いてきたわたしにとって、セックスは好きとか嫌いとかの次元じゃなく、単なる経済活動になってしまっているけれど、変えられない現実から一瞬でも遠ざかることのできるセックスは、生きていく上で絶対必要な、言うなれば酸素みたいなものだ。
本日最後のプレイを終え待機室に戻ると、みひろちゃんがいた。他には誰もいない。
「お疲れ様でーす」
ピンクのラインストーンでデコレーションされた派手な鏡と向かい合い、メイクを直していたみひろちゃんがこっちを向いて言う。その笑顔のせいで一気に怒りが上り詰めた。
「お疲れ様じゃないわよ。いったい何のつもりなの!?」
「はーい? なんのことですかー?」
「トボけないで! わたしの私物籠にゴキブリ入れたくせに!! 昨日はかけておいたコートをぐしゃぐしゃにして待機室の隅に置いといたわね!? その前はブーツの中に精液つきのティッシュを入れたでしょう!?」
「何を言ってるのか、わからないんですけどぉ」
「あなた以外誰がいるの!!」
相手になんかしないと言わんばかりに、涼しい顔で鏡を見つめながらアイラインを引いている。舐めきった態度にさらにヒートアップしてしまう。
「怒ると殺人犯っぽくなるんですねぇ。いつもはいい人ぶって、上手くカモフラージュしてるけど」
「いったい何がしたいのよ!! なんでそんなにわたしを追い詰めるの!?」
「大袈裟だなぁ。ゴキブリ一匹で、ぶちギレちゃって。園香さんが殺した相手にだって家族がいて、園香さんはその人たちに一生消えることのない傷を背負わせたんですよ。それに比べれば、これぐらい、なんですか」
「そんなことはわかってる!!」
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。