泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第40話>
<第40話>
わかってる? いいや、わかってなんかいないだろう。
事件の後当然、何年も施設に入れられた。世間と隔離された健康的で単純な日々の中で、何度となく反省を強いられ、その場を切り抜けるためだけに呪文みたいに繰り返した。本当に後悔しています、申し訳なく思っています……。
ほんとの反省なんてしていない。
みひろちゃんが言う通り、あいつの背後にいた親や家族、あいつを愛していた人たちの存在に思いを馳せると、辛くなる。その人たちにいくら謝っても謝り足りないことをしてしまったんだと思う。
でも、もしあいつにそういう人たちがいなかったら。
一人ぼっちであいつが生きていたとしたら。
だとすれば、わたしが責められる理由なんてないんじゃないのか。
あいつは殺されても仕方のないことを、わたしにしたんだもの。
「なんでわたしを追い詰めるの!? あなたには何も関係ないじゃない!!」
「そう、関係ないですよ。ただ気に入らないだけです。人を殺しておいて、平気な顔して生きているあなたが」
「平気なわけないじゃない! もしあんなことがなければ、こんな仕事してなかった」
「でしょうね。でもそれは、自分のせいなんですよ。あなたに文句言う権利はありません」
そう言われたら、何も言えなくなる。
不敵に笑うみひろちゃんを睨みつけながら拳を握った。手のひらに食い込んだ爪が痛い。
あいつを――ハルくんを殺したのも、あの町や生まれ育った家から逃げたのも、全部自分でしたことで自分の選択の結果で、誰に頼まれたわけでもないし誰のせいにもできない。
あの日までずっといい子として生きていたわたしは、道を外れることの意味を、その苦しさを、こうなってみるまで想像できなかった。
当たり前だけど、世の中はわたしに厳しい。
誰もが罪を犯したわたしを最低だと断罪し、くだらない男にハマったと呆れる。
ハルくんを刺した時、どれだけ辛かったということ……。誰か一人でもわかってくれたらと思ってしまうのは、甘えだろうか。
「わかりました? 人殺しには笑って生きる権利も、お金稼いで好きな服着たりおいしいもの食べたりする権利もないんです。一線超えちゃった人間は、一生下向いて、みんなに後ろ指差されてりゃあいいんですよ」
ぱん、と乾いた音がして一瞬手のひらが燃えた。
みひろちゃんの顔が歪んで、戻る。
ほんの数秒、目を見開いてわたしを見つめた後、みるみるうちに赤く染まっていく頬に手をやり、怒鳴る
「言いますよ……。みんなに言いますからね! 絶対言いますからね!!」
激昂するみひろちゃんを波ひとつ立たない静かな心で睨み返していた。
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