泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第42話>
<第42回>
「無理って、どうしてよ」
「ごめんなさい、ちゃんと時間作って勉強します。だから、バイトは続けさせて」
「どうしてそんなにお金が欲しいんだ?」
ずっと黙っていたお父さんが口を開いた。
わたしを責めようとしない静かな顔は、目だけが心の奥を覗きこもうとしているように鋭くて、反射的に逸らしてしまう
「お金のためじゃない。いつか社会に出る時のために、今から働く経験を積んでおきたいの。お願いします」
優等生ぶった言葉がむなしく響いた。
親には本当のこと、本当の気持ち、何ひとつ言えない。
助けてほしい時だって、助けてなんて言えない。
たしかにわたしたちはこの人たちから生まれ、育て養ってもらえているけれど、それはあくまで経済的な援助で、この人たちの存在がどれほど心の支えになっているだろうか。
いや、親を責めるのは間違っている。悪いのは親にも友だちにも、本当の自分をさらけ出せない、自らいい子のラベルをはがす勇気を持てない、わたしだ。理解してもらう努力をまったくしないくせに、理解してくれないとへそを曲げてたら、ただのだだっ子じゃないの。
でも、そんな努力なしに、ごく自然にありのままのわたしを受け入れてくれたハルくんがいた。そんなハルくんを繋ぎ止めるなら、どんなことでもする。親に嘘をつくことも、体を売ることも、なんでもない。
「経験って……。夏休みのバイトだけで十分じゃない? 今どっちが大切かわからないの?」
「まぁまぁ、お母さん。バイトとはいえ仕事なんだから、そう簡単にいくものじゃないだろう。代わりの人だってすぐ見つかるかどうか」
優等生の台詞をすんなり信じてしまう2人に、ほっとしていた。
結局、お父さんがお母さんを説得してくれた形で、バイトは続けられることになった。ただし、期末テストの結果次第だと条件つき。
その後ベッドに入ってもまんじりともできなくて、朝方まで起きていた。
下がる成績に厳しくなる親の目、そして肝心のハルくんは浮気しているかもしれない……。
自分の体温で暑くなった布団の中が不安を増幅させて、体の疲れと反比例して頭の中心は冴えきっていた。明け方になってようやくうとうとできた後、よく思い出せないけど、何か真っ黒くて大きなものに追いかけられる、嫌な夢を見た。
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