泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第43話>
<第43話>
予備校を休んで、デートクラブじゃなくて、ハルくんの家に向かった。
今まではあらかじめ会う日を決めていて、デートは時間割のように規則正しくて、メールも電話もなしに突然会いに行くなんてこと、なかった。
ハルくんを信じたくても、あの夜見た光景はくっきり瞼の裏に焼き付いて、離れない。浮気相手を妹だなんて、よく考えたらあまりにも使い古された言い訳の気がする。
こんなことをしたって、ハルくんの潔白が証明されるわけじゃない。本当にハルくんの部屋にあの女の子がいたところで、どうしたらいいのか。それでも何か行動せずにはいられなかった。
不意打ちで部屋を訪れたわたしに、よく来たな、会えて嬉しいって、優しい言葉をかけてもらえたら。
そしたらきっと、不安も疑いも吹き飛ぶのに。
「どうしたんだよー、いきなり」
ドアが開き、見慣れた笑顔がわたしを見下ろす。
でもよく見れば首筋に汗が浮いているし、どんなに忙しい時でもきちんとセットされている髪の毛があちこちハネている。突然やってきたわたしに驚いて、慌てて出迎えたって感じ。
「今日予備校の日じゃなかったの?」
「サボっちゃった。で、さっきまで友だちと近くにいたの。もう解散したけれど。ついでに寄ったの、迷惑だった?」
「そんなわけねーじゃん!」
ハルくんは華奢な胸にわたしを抱き寄せる。汗を吸ってうっすら湿ったTシャツの感触が愛おしいけど、抱きしめるのは動揺が表れている顔をよく見られたくないためかもしれない。一度疑いだすと、何もかもが怪しく思えてしまう。
「上がって大丈夫?」
「もちろん。今日園香来ると思ってないから掃除してねーけど、我慢してな」
掃除してないと言う割に、家はきちんと片付いていた。ソファの上のモノトーンのクッション、マガジンラックの中のメンズファッション誌、カーテンレールに干された洗濯物。一見いつもと変わらない、馴染みある部屋の光景だった。
でも、気づいてしまった。
ガラステーブルの上に置かれた2つのマグカップ。中にはカフェオレがそれぞれ2/3くらいまで入っている。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。