泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第10話>

2015-05-21 20:00 配信 / 閲覧回数 : 928 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sawa 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第10回>

 

「借金があるとか小さい子どもがいるとか、ソープで働く理由は人それぞれだ。なんとかしたくても、俺は店側の人間だからそこまでは入っていけない。でもどんな理由を背負ってるにしろ、頑張ろうって気持ちには真摯に答える。それが俺の信念だ」

 

秘密の研修の後、少しだけ離れてホテル街を歩きながら、朝倉さんは語った。

 

ヒモになってくれる子を探して、平気で女の子に手を出す人。自分だって風俗で働く人間のくせに、風俗嬢なんてって見下している人。そういう従業員を、それまでたくさん見てきた。

 

この人は違う。だからこれからも、この人の傍で働きたい。ホテルの看板のネオンに照らされ青っぽく光る端正な横顔を見上げていたら、わたしの中にも信念が生まれた。

 

2才になった芽留ちゃんは最初、モジモジと杏里の影に隠れていたけれど、「ほら、挨拶」とママに背中を押され、ようやくこんにちはと震える声を絞り出した。杏里が言うには小食らしく、3人で入ったファミレスでもお子さまパフェを半分食べたきりでスプーンを置き、杏里の膝の上でくうくう眠ってしまう。

 

「いいな、沙和はいつまでも若くて。わたしなんてもう、すっかりオバサンだよ。下の子産んだら10キロも太っちゃったし」

 

芽留ちゃんの息遣いに合わせて優しく背中を叩く杏里の頬は、たしかに店にいた頃よりもだいぶふっくらしている。

 

わたしの半年遅れで入店してきた杏里とは、同い年だってこともあり、話してみるとすぐに仲良くなれた。

 

ピアノかフルートを思わせる透き通った声で話す、華奢で色白で骨細ですらっとした子で、男の人の保護本能をくすぐる要素に溢れている。とても真面目で仕事はしっかり取り組むけれど、気持ちはとても不安定ですぐぐらつき、店にいた頃もよく過呼吸を起こして倒れていた。心も体も、ガラス細工みたいに繊細でか弱い。

 




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