泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第12話>

2015-05-23 20:00 配信 / 閲覧回数 : 945 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sawa 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第12回>

 

「でもね。バレたとかじゃなくて、自分から言ってくれただけ、いいなって思うの」

 

「それって本当の優しさかな? 逆に、言わないのが優しさなんじゃない? わたしだったら浮気されるのはもちろん嫌だけど、するなら死ぬまで隠し通してほしい。打ち明けられたら、苦しむのは相手でしょう? 言って楽になりたいっていうのは自分のエゴなんだから、罪悪感があるならなおさら、隠し通すのが本当の優しさだと思うけど」

 

だから、隠し通そうとした。理解してほしくても理解しきれず、苦しめてしまうぐらいならと、黙って消えることを選んだ。

 

それでも隠しきれなくて、苦しめ傷つけて、永遠に失ってしまったんだけど。

 

杏里は紅茶のカップを両手で包み込みながら、小さく頷く。

 

「そうかもね。でもね、彼、今までの奥さんには浮気しても言わなかったんだって。わたしは特別だから、話してくれたんだって」

 

その言葉だってウソかもしれない。

 

正直な感想は杏里には伝えられない。

 

わたしはこの子がどれだけ弱いか、よく知っている。今はまだ残酷な現実を直視しないで、ニセモノの望みにすがっていたほうがよさそうだ。

 

「ま、なるようにしかなんないな、って。もう子どもだって2人もできちゃったんだし。いざとなったらまた働くよ」

 

「働くって、ソープで?」

 

「これしかないもん、わたし」

 

杏里は10代の終わりから風俗業界に入ってきて、それ以外の世界を知らない。高校まではなんとか卒業したけれど、昔から精神状態が良くなく、学校も休みがちだったと聞いている。

 

 




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