泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第12話>
<第12回>
「でもね。バレたとかじゃなくて、自分から言ってくれただけ、いいなって思うの」
「それって本当の優しさかな? 逆に、言わないのが優しさなんじゃない? わたしだったら浮気されるのはもちろん嫌だけど、するなら死ぬまで隠し通してほしい。打ち明けられたら、苦しむのは相手でしょう? 言って楽になりたいっていうのは自分のエゴなんだから、罪悪感があるならなおさら、隠し通すのが本当の優しさだと思うけど」
だから、隠し通そうとした。理解してほしくても理解しきれず、苦しめてしまうぐらいならと、黙って消えることを選んだ。
それでも隠しきれなくて、苦しめ傷つけて、永遠に失ってしまったんだけど。
杏里は紅茶のカップを両手で包み込みながら、小さく頷く。
「そうかもね。でもね、彼、今までの奥さんには浮気しても言わなかったんだって。わたしは特別だから、話してくれたんだって」
その言葉だってウソかもしれない。
正直な感想は杏里には伝えられない。
わたしはこの子がどれだけ弱いか、よく知っている。今はまだ残酷な現実を直視しないで、ニセモノの望みにすがっていたほうがよさそうだ。
「ま、なるようにしかなんないな、って。もう子どもだって2人もできちゃったんだし。いざとなったらまた働くよ」
「働くって、ソープで?」
「これしかないもん、わたし」
杏里は10代の終わりから風俗業界に入ってきて、それ以外の世界を知らない。高校まではなんとか卒業したけれど、昔から精神状態が良くなく、学校も休みがちだったと聞いている。
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