シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第6話〜
<第6話>
啓太とバンドメンバーがいつも打ち上げに使っているのは、2人が住むアパートから徒歩5分の小さなバー。ジンさんの先輩がマスターをやっていて、常にミュージャン志望の青年が集まり、ギャラは出ないけどミニライブも演らせてもらえる。音楽版トキワ荘って趣きの、汚いけど居心地のいい店だ。
「ごめんね、久美子ちゃん。疲れてるのに。来てもらっちゃって」
「いえ、あたしは全然いいんです。こっちこそすみません、そのTシャツってたしか、2万したってこの前言ってませんでしたっけ?」
啓太のゲロで臭気漂う前衛アートみたくなっているヴィンテージもののTシャツを指差すと、ジンさんは、
「別にいいよ、あいつの酒癖の悪さには慣れてるし」
と苦笑いした。
ジンさんは34歳、ベースのユキさんは33歳、ドラムのタクさんはあたしとタメの32歳で、ボーカルの啓太だって最年少とはいえあと2カ月で30歳。
結成から12年、インディーズデビューして10年。
「最初は若さと勢い溢れるピチピチのパンクバンドだったのに、いつのまにか売れないミュージシャンのおっさんの履きだまりだよなぁ……」とよくジンさんが冗談めかして言うけど、まったく笑えない。
「ほら啓太、帰るよ」
ユキさんとタクさんに看取られるようにして、胎児みたく床で丸まって寝ている啓太は、肩の上まで伸ばした髪も、下北沢で買ったお気に入りのパーカーも徹底的にゲロで汚れている。あたしですら一瞬、触れるのを躊躇ったくらいだ。
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