シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第6話〜

2015-07-20 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,308 / 提供 : ヴィクトリカ・ゾエ・キレーヌ / タグ : ヒモ 連載小説 <叫び>


 

JESSIE

 

<第6話>

 

啓太とバンドメンバーがいつも打ち上げに使っているのは、2人が住むアパートから徒歩5分の小さなバー。ジンさんの先輩がマスターをやっていて、常にミュージャン志望の青年が集まり、ギャラは出ないけどミニライブも演らせてもらえる。音楽版トキワ荘って趣きの、汚いけど居心地のいい店だ。

 

「ごめんね、久美子ちゃん。疲れてるのに。来てもらっちゃって」

 

「いえ、あたしは全然いいんです。こっちこそすみません、そのTシャツってたしか、2万したってこの前言ってませんでしたっけ?」

 

啓太のゲロで臭気漂う前衛アートみたくなっているヴィンテージもののTシャツを指差すと、ジンさんは、

 

「別にいいよ、あいつの酒癖の悪さには慣れてるし」

 

と苦笑いした。

 

ジンさんは34歳、ベースのユキさんは33歳、ドラムのタクさんはあたしとタメの32歳で、ボーカルの啓太だって最年少とはいえあと2カ月で30歳。

 

結成から12年、インディーズデビューして10年。

 

「最初は若さと勢い溢れるピチピチのパンクバンドだったのに、いつのまにか売れないミュージシャンのおっさんの履きだまりだよなぁ……」とよくジンさんが冗談めかして言うけど、まったく笑えない。

 

「ほら啓太、帰るよ」

 

ユキさんとタクさんに看取られるようにして、胎児みたく床で丸まって寝ている啓太は、肩の上まで伸ばした髪も、下北沢で買ったお気に入りのパーカーも徹底的にゲロで汚れている。あたしですら一瞬、触れるのを躊躇ったくらいだ。

 

 

 



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