シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第7話〜
<第7話>
トレンチコートに汚れと臭いが移るに違いないが、どうせ通販で買った8900円の安物だ。
えぇい。
「んぅ……。久美子……」
あたしより6センチも背が低い、小学生レベルのミニマムサイズな啓太を背負うのは造作もなかった。
ジンさんユキさんタクさん、そしてマスターに
「すみませんでした、本当に本当にすみません!!」
を連呼してからバーを出ると、12月の寒風が少しだけ啓太の意識を鮮明にする。
「ごめん。俺、またやっちゃった」
「いいよ別に。大丈夫? 気持ち悪くない?」
「気持ち悪い……。なんか、振動が、やばい」
「これでもだいぶ慎重に運んでるつもりなんだけど? アパートまであと10メートルだから、我慢してよ」
背中で啓太が力なく首を振った。
そして、酔うと必ず飛び出すこのセリフ。
「なぁ、久美子。なんで俺まだ生きてんだろ。カートだってシドだって20代で死んでんのにさ。もう30歳になっちまうよ」
そうだね、と相槌を打ちながら赤ちゃんにするようにジーンズのお尻をぽんぽんと叩いてやる。
築15年と契約時の資料には書いてあったけどおそらく30年以上は経っている、家賃6万円の1LDKがあたしたちの愛の巣。
愛の巣だなんて聞こえはいいが、夏場はゴキブリの巣と化す上、裏手にある雑木林で蝉が大量発生するので、虫嫌いのユナなんて半日で発狂してしまうだろう。
いくら男にしてはだいぶ小柄とはいえ、啓太を背負い、自分のバックも持ったまま2階までの階段を上がるのはさすがにしんどかった。
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