シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第8話〜
<第8話>
ようやく鍵を開け玄関に啓太の体を横たえれば、啓太はうぷぅと口を押さえる。
「ダメ、ここで吐かない! トイレまで我慢して!」
叱りつけてトイレへ連れて行き、便座カバーもスリッパもない殺風景な個室の中、便器に顔を突っ込ませ吐かせた。既にほとんど吐ききってしまったらしく、唾液と痰が混ざったようなものしか出てこない。
「久美子、ほんとごめん」
トイレの後は風呂場へ直行、あたしも啓太のゲロが付着した服を脱ぎ、互いに全裸になってゲロまみれの髪と体を洗ってやり、口をゆすがせる。
啓太はシャンプーを泡立ててもらう間もバスタオルで体を拭かれる間もドライヤーでやわらかい猫っ毛を乾かされる間も、終始おとなしくしていた。
大風邪引いて母親に看病してもらう、幼児の気分なのかもしれない。
「謝るならもう少し飲み方考えなさいよ、酒にマジ弱いの、自分でわかってるくせに」
「うん……。ごめん。気をつける」
同じ注意を何度繰り返したかわからない。
啓太の飲み方は、アルコール依存の人そのものだ。飲めない酒を無理やり流し込み脳をスパークさせ、後でやってくる嘔吐の嵐で体をいじめ、あたし以上に溜まっているはずの鬱憤をなんとか酒で解消している。
事務所にも見放されかけ、高すぎる現実の壁の前でもがいている30歳前の売れないロックミュージシャン。
言う間でもないが、病んでいる。
「今日はもう寝て」
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