シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第14話〜
<第14回>
第一、「啓太のためならなんでもする」と冷静な思考を失っていたあたしが本当にヘルスやソープに行っていたら、あっという間に精神崩壊していたはずだ。
あたしは10代から家庭が機能していなくて、「そんな仕事をしちゃいけません」と諭すような親にも恵まれず、年端もいかぬうちから生きるために体を売ってきた女じゃない。あくまで常識的な親のもとで幸福に育ち、一般常識を叩き込まれ、30歳まで一般常識と共に生きてきた。
風俗に入ったところでその『常識』、つまり体を売るような仕事をしてはいけないとか、好きでもない男に触れられたら気持ち悪いとか、そういう普通の感覚を捨てられるわけ、ないんだから。
しかし、いつのまにか派遣OLの仕事も辞め、18時から翌朝4時のシフトで週6日出張マッサージで働く生活が続き、8月に32歳の誕生日を迎えてからというもの、その普通感覚がビシビシあたしに訴えかけてくるのだ。
いつまでこんなこと続けるつもりなの、と。
「なんでまだその彼氏と別れてないの、そいつ、絶対久美子ちゃんに甘えてるだけだよ」
2週間に1回、港区の自宅マンションに呼んでくれる木嶋さんは38歳。他の客には本名始め、自分のことはほぼ教えないが、入店直後からずっと呼び続けてくれてもう2年。すっかり、気心知れた仲になってしまっている。
「やっぱ、そうですよね」
「薄々自分でも気づいてるんじゃん?」
「薄々じゃなくて、しっかり気づいてます……。でも、才能あるから」
「その話は何度も聞いたけど。本当に才能あるなら、とっくに芽が出てるはずじゃない?」
「そう、です……よね」
「仮に才能あるとしたって、本人が死ぬ気で努力しなきゃどうしようもないでしょ、そういう世界って。今の彼は久美子ちゃんに甘えきりのぬるま湯状態で、カートとシドに憧れて夢追いかけてる自分に酔ってるだけだよ。下手したら、いつまでもこのまま久美子ちゃんに甘えて、ゆるゆる暮らしていけたらいいなぁー、エヘヘ、ぐらいに思ってるよ?」
どうにも反論できない。
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